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55 初めてのおサボり
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『ほら、ゆな。もうちょっとだよ!』
『でもっ、』
『だいじょーぶ、だいじょーぶ!!今の時間ならバレないって!!』
逆光で顔の見えない少年に引っ張られた結菜は、双葉大病院の階段を全力疾走で登っている。いつもたくさんの点滴に繋がれている少年は、なぜか点滴をしていなくて、それどころか元気よく走っている。楽しそうなはちゃめちゃな声は思ったよりも高くて、その少年が少女に見えるくらいに女の子っぽい。
ミルクティーブロンドの髪がふわふわと揺れる。ぶんぶん揺れる手に引っ張られながら、結菜は光へと駆け上っている。
光へと到着する、そう思った結菜はぶわっと襲ってくるであろう光に備えて目を細める。けれど、思ったような衝撃が訪れることは決してなかった。
ふわっと空気が舞い上がったような清々しい感覚を覚えた次の瞬間、逆光はなくなり、少年の顔がふわっと浮かび、
「『ゆな』」
目の前には陽翔がいた。
夢と現がぐちゃぐちゃに混ざった感覚が、結菜の脳を溶かしていく。
「?」
(め、目がしばしばします………、)
ぷっくりと腫れ上がったように重たくて熱い瞼をごしごしと擦りながら、結菜は辺りを見回す。
部屋からはツンと鼻を刺すアルコールの匂いが漂っていて、見渡す限りただただ白い。音が何もしない空間には、結菜と目の前にいる陽翔の心音だけがとくんとくんと脈打っている。
「ここは保健室。泣き疲れて寝たゆなをひとまずここまで運んだ」
(なき、つかれた………?)
ころころと今までのことを思い出そうとして、けれど、彼にみっともなく縋って泣き叫んだところまでしか思い出せなかった。
(もしかしなくとも、あのまま………、)
「で?やりたかったっていう授業のおサボりの感想は?」
「え?」
(まさかの、これで完了でした?)
ぱちぱちと瞬きを繰り返した結菜は、我慢をできずにこぼしてしまったあくびをふあっとこぼした。
「おサボりって存外簡単?」
「ぷっ、はは、あははは!!」
「な、なんなのですか?」
「いや?確かにサボるのは簡単だ。けど、戻るのは難しんだぞ?1度サボってしまえば、人間その状況に慣れて、戻れなくなる。どこかでサボる道を探して、どうにかしてサボろうとして、どんどんどんどん堕落していく。ーーーーーに、」
何かをぼそっと呟いたのに、結菜はうまく聞き取れなくて、それがちょっとだけもったいなくて悔しくて、結菜はじっともう1度彼が言ってくれないかと探ってみる。けれど、彼は結局何も口にしてくれなくて、結菜は諦めた。
「さて、今は何時間目だと思う?」
「………2時間目ぐらいでしょうか」
「ハズレ。正解は3時間目」
「え………、」
「ははっ、人生初のサボりが半日とは、ゆなって本当に肝が据わってるよな」
あまりにも想定外な事態に、結菜は口をぽかんと開けてしまった。
人生で初めてのおサボりは、ただ泣き疲れて眠って起きたら終わっていた。
*************************
読んでいただきありがとうございます🐈🐈🐈
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