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53 初めての1番乗り
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次の日、つまり木曜日であり4日目の朝。
いつもよりも早く起床した結菜は、鞄を握りしめて学校へと向かう。
朝の清々しい空気には、いっそのこと憎たらしく感じつくらいに静寂の冷淡さが滲み出ていて、けれど、この美しい世界を独り占めできているのかと思うとその冷淡さすらも特別に思えた。
周囲に建つ建物が豪邸から少し小さめの住宅に変わり、古めの住宅に変わり、ほんの少し抜けると大通りへと着く。そうすれば、ほんのちょっと周囲よりも早めに動く人々とすれ違うようになり、静寂は喧騒へと変化する。
夏に入り始めた蒸し蒸しする日差しに、湿気の多いアスファルトの上を歩きながら、結菜は一瞬迷って立ち止まる。
(ちょっとだけ、)
ブレザーを脱いで手にかけて、ネクタイを引っ張って下げた結菜は1番上のボタンを開けた。
(す、涼しいです………)
今までに考えられなかったぐらいの解放感に身体を襲われながら、結菜は昨日とは打って変わってラフになった服装にほんのちょびっと頬を緩める。
ビシッと制服を着るのがバカらしくなって、結菜はローファーとストッキングをやめた。真っ白なゆるゆるの靴下をおろしめで履いて、ブレザーを着るのをやめて、規定のベストを脱いでカーディガンを羽織っている。学校1番の優等生の唐突な変わりように、周囲はどう反応するだろうか。もしかしたら驚きすぎて声も出ないかもしれない。
そういうことを想像しながら歩くのは存外楽しくて、幸せで、結菜はくるっと一回、その場で回ってみる。
楽しい時間というのは過ぎるのがあっという間で、結菜は1番乗りで教室へと到着した。
誰もいない教室というのは存外幸せな空間で、結菜はそんな空間を独り占めしているという愉悦にルンルンと左右に揺れる。思い切って髪用のアイロンで巻いてみた髪がゆらゆらと左右に揺れる。人生初と言っても過言ではないゆるふわパーマヘア。
ーーーがらっ、
けれど、楽しい1人の時間というのは存外短くて、すぐに教室に誰かがやってきた。
「ん?あぁ、ゆなか」
呆然とした声を漏らして大きな欠伸をしながら教室に入ってきたのは陽翔だった。いつも通りのラフな格好に眠そうな気だるい表情。
初めての1番乗りというのは、これ以上ないご褒美と共に始まった。
*************************
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