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48 お寿司屋さんへ
しおりを挟む「お、お着替え終わりました」
「ん、じゃあきてもらってすぐで悪いんだけど、これだけ羽織っといてくれる?」
そう言った彼に手渡されたのはオーバーサイズのグレーのパーカーだった。手触りのいいパーカーを撫でながら、結菜は首を傾げる。
「どうしてですか?」
「………俺が私服でお前が制服で食べ物屋に行くのは流石にやばい。ある程度制服隠しとけ」
「そういうものなのですね………、常識知らずで申し訳ありません」
結菜はとりあえずブレザー、ベスト、ネクタイを除けてパーカーを被る。服に入ってしまった髪を外に出しながら、結菜は違和感を感じてブラウスのボタンを1つ開けた。
(………ボタンを1つ開けるだけで、こんなに開放感があるのですね………………)
のびのびとした感覚を心地よいと感じながら、結菜はくるっと回ってみる。
「これで大丈夫ですか?」
「ーーあぁ」
頷いた彼はポケットに色々と突っ込みながら結菜に手を伸ばす。
「行くぞ」
「はい!!」
満面の笑みで笑った結菜は、初めてのお寿司心を弾ませていた。
夕日の橙と夜闇の濃紺がぐるぐると絵の具のように混ざり合う街の中を、結菜は彼につれられて歩く。いつの間にか繋ぐのが当たり前になっていた手はしっかりと握り込まれ、結菜の迷子を防止する。
「明日はどこに連れて行ってくださるのですか?」
「明日はショッピングモールとファミレスに連れて行ってやる」
「楽しみです!!」
ほわっと笑った結菜に、陽翔は首をこてんと傾げる。
「………ショッピングモールにぐらいは入ったことがあるんじゃないか?」
「はい。ですが、家族にやいやい言われながらでしたし、そんな安物を買うことは許されないと言われて、“本当に欲しいもの”は何1つ買えませんでしたから」
「なるほどな」
納得したように頷いた彼は少し不機嫌そうに口元を歪めていた。結菜がその様子をじっと見つめていると、彼は居心地悪そうに耳を僅かに赤くしてそっぽを向く。
「ーーーあまり見るな」
「? どうしてですか?」
きょとんと首を傾げた結菜は、彼の顔を覗き込もうと頑張ってみるが。結局は身長差に邪魔されて彼の顔を拝むことはできなかった。
「………ーーーい、からだ」
「え?」
「だから、恥ずかしいからだと言っているんだ」
あまりにも普通な回答すぎて、結菜は数度瞬きをしてしまう。
「ほら、回る寿司についたぞ」
結菜が口を開こうとした瞬間、彼によって目の前の建物に指が刺される。全体的に海を意識してか青っぽい色彩をしているお店は、結菜の知っているお寿司屋さんとは全く異なっていて、けれどそれが、なんだかとても嬉しかった。
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