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47 刺激的な目覚め
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「………ーー、ーな、………ゆな」
「ん、」
ふわりふわりと水面の上に漂う小舟のように揺れる意識。
結菜は口をもにょもにょとさせて、近くにあったそれをぱくっと喰んだ。ちょうど、小さい頃に仲の良かった子のお母さんが買ってくれた細いクッキーの棒にチョコレートがかかったお菓子の夢を見ていた結菜には、そのぷらぷら揺れるものが夢に見たお菓子のように錯覚したのだ。
「ーーー寝ぼけすぎだ」
「………?」
ぼーっとした意識のまま顔を上げると、そこには長いミルクティーブロンドをかき上げて形の良い額を惜しげもなく晒した陽翔の姿があった。
「………………ーーーー!?」
だんだんと、けれども着実に意識が浮上しつつあった結菜は、状況を理解するにつれて目を見開いて驚いた。
「っ、」
そして、咄嗟に立ち上がろうとして失敗した。
身体が前方に倒れていくのをスローモーションで感じ取りながら、結菜は痺れた足で立ちあがろうとすることは以後やめようと決意する。そもそも足に感覚がない時点で、色々と気がつくべきだった。
口の中にあった彼のパーカーの紐を加えるのをやめた結菜は、大理石の床に鼻からダイブするのを覚悟して目を閉じる。
「………?」
けれど、覚悟した痛みは一向にやってこなかった。それどころか、なんだか妙に温かいものに身体が包まれている気がする。
さわさわと触るようにして結菜は手を動かしてみる。
「っおいっ!!」
「?」
目をゆっくり開けた結菜は、その目覚めたばかり特有の妙な眩しさに目を細めて、けれど次の瞬間には目を見開いた。
結菜の目の前にあったのはドアップになった陽翔の顔だった。その形のいいくちびるが息を吐くたびに、結菜の顔に熱が集まる。
(つまり、さっきわたしがさわさわしていたのは………、)
理解してからの行動は早い。
結菜は痺れて使い物にならなくなった足を颯爽と切り捨てて、腕の力だけで彼から離れる。
「ご、ごめんなさい!!」
頭をガシガシと掻いてから立ち上がった彼はズレたヘッドホンを首に掛け直しながら、結菜の制服を手渡す。
ほんのしばらく、そのままの状態で硬直が続いた。多分、彼は結菜の足の痺れが落ち着くのを待ってくれているのだろう。
(本当に、器用なのか不器用なのかわからない人ですね)
足がまともになってきた結菜は、ゆっくりと立ち上がった。
「寿司屋行くぞ」
彼の言葉におずおずと頷いた結菜は、また洗面所に向かう。
制服を抱きしめたまま閉じた扉にもたれかかって、そのままずるずると床に座り込む。
(やっぱり、ほっぺたがあつい、です………、)
目覚めたばかりなのに妙に疲れた感じがする。
でも、その疲れ具合がなんとなく心地よくて、結菜は目を細めた。
「………お寿司、楽しみですね」
ゆっくり立ち上がった結菜は彼がいつの間にか洗ってくれたのだろう制服を身につけた。
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