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42 メロンソーダの不幸
しおりを挟むカラオケの個室を出てから5分ほど歩けば、ボーリングを準備する空間へと出てきた。迷子になりそうなくらいに複雑な道順で、結菜の頭はもうこんがらがってしまっている。
赤や黄色、青などの原色でベタ塗りされた壁に大きくて不思議な自販機、そしてカラフルなたくさんのボールが並んでいるボーリング施設は、結菜に異国を思わせた。こんな国がないのは分かっているし、ここがただのアミューズメント施設の内部であることは重々承知している。でも、結菜にはここがどっか遠い世界のことにしか見えなかった。
「ーーそれでさぁ、あっくん!きゃっ!!」
「!!」
ーーーばしゃっ、
あまりにぼーっとしていた結菜に、目の前から歩いてきたカップルの女の子の肩が当たる。勢いよくぶつかってしまったためか、女の子が持っていたメロンソーダがバシャッと結菜の制服にかかってしまった。
ぽたぽたと漆黒のブレザーと暁色のチェック柄の折りスカートからメロンソーダが滑り落ちる。
(これは………、まずい、ですよね?)
いくら世間知らずな結菜でも、この状況が非常にまずいものであることは分かる。向こうからいちゃもんをつけられてしまえば、いくらメロンソーダをかけられたとはいえどもぼーっとしていた結菜の方が悪い。それが社交界のルールだ。
ぎゅっと身構えてしまった結菜を他所に、ギャルらしき痛んだ金髪の女の子はあわあわと慌てている。
「うわっ!まじごめん!!大丈夫?怪我は?あっちゃー、それよりも制服がやばいよね」
優しい口調でテキパキと捲し立てるように話す女の子は、なんだかとても心配そうな顔をしていた。
「あ、」
(揚げ足をとらない、………のですか?)
意味が分からない結菜は口を開こうとして、けれど、それは隣に立っていた陽翔の手に塞がれたことによってできなかった。
もごもごと彼の手の中で言葉を発した結菜は、後ろから抱きしめるように結菜に寄り添っている陽翔を間近から見上げながら、こてんと首を傾げる。
「………何も言うな」
耳元でこそっと話されて、背中がぞわっと泡立つのを感じた。
あまりにもこしょばくてぎゅっと首をすくめると、彼は不思議そうに無表情で首を傾げていた。結菜も困っても楽しくても不安でも嬉しくてもずっとずっと仮面のような微笑みを浮かべているが、彼も大概鉄仮面な気がする。
最近は喜怒哀楽がはっきりとしてきているが、それでもやっぱり普通の人とは程遠い結菜から見ても表情が乏しい彼は相当に鉄仮面だろう。
メロンソーダから始まる不幸は、結菜に大ごとになりそうな予感を感じさせていた。
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読んでいただきありがとうございます🐈🐈🐈
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