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39 初めてのポップコーン
しおりを挟む「ポップコーンも食べるか?」
静かに自分の分のココアを飲んでいた陽翔に言われ、結菜はこくんと1つ頷いた。近くにお箸もスプーンもなかったから手づかみで食べるのが正解であると、ちゃんと分かっている。
でも、とってもお行儀が悪いことをしている気分になってしまい、結菜はポップコーンを取るに取れなくなってしまった。
真っ白で艶やかなポクポクと変な形の丸っこい物体。ちょっと暖かそうなそれはふわふわと独特なしょっぱい香りを醸し出している。塩味だというポップコーンは実際にはどんな味がするのだろうか。
考えれば考えるほどにわくわくして仕方がないのに、どうしても最後の1歩を踏み出せない。
ぎゅっとスカートを握りしめていたら、横からひょいっと形のいい白い手が飛び出してきた。ポップコーンを1つ摘んだ彼は、ぽいっと口の中にポップコーンを突っ込む。あまりにもあっという間の出来事でぽかーんとしてしまった。それに、思っていたよりもポップコーンは存外お行儀がいい食べ物だった。ぽろぽろとクズが落ちることもないし、お手々がべちゃべちゃになることもない。画期的な食べ物ではないだろうか。
「………………」
無言で陽翔に勧められて、結菜はごくんと唾を飲み込む。
「いただきます」
お口の中に1粒の塩ポップコーンを放り込む。見た目的にはすべすべしているポップコーンだが、実際はなんとなく発泡スチロールに近いざらざらした感じがした。中身も詰まっていなくて発泡スチロールみたいにとても軽い。
カリッと噛むと、柔らかいようでほんの少し硬いポップコーンがお口の中で弾ける。
「っ!」
ケーキなどの洋菓子のような分かりやすい美味しさがあるわけではない。けれど、その素朴な塩加減が、優しい甘みが、荒んだ心を奥底からぽかぽか暖めてくれるような錯覚を覚えた。あまり食べすぎては体調を崩してしまうと理解していた。
けれど、どうしても食べたいと感じた。
手は止まるところを知らずに何度も何度もポップコーンの入ったお皿の方へと向かう。
ーーーかつん、
やがて、小さな器いっぱいに入っていたポップコーンは空っぽになってしまう。もう1粒食べようとして、けれど、指の先がお皿にぶつかったことでそれに気がついた結菜はしょぼんと分かりやすく落ち込んだ。
「………まだ菓子はある」
あまりに見るに耐えなかったのだろうか、陽翔からよく分からないフォローをされた結菜は、初めて食べたポップコーンに心の中で小さく悪態をついたのだった。
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