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38 彼の弱点?
しおりを挟むキャラメルラテはなんとなくチープな味がする気がした。見た目や香りこそ、そこそこいいものに感じるが、深みがあるコーヒーでもなければ、ミルクがとても濃厚であるといった感じもなかった。
コーヒーはどちらかというとあっさりとしていてミルクもなんだかチープな感じがする。匂いは高くはなんに抜けるが、飲んでみるとそうでもない。肩透かしを食らった気分になりながら、結菜は彼にマイクを手渡す。
「何を歌うのですか?」
「適当かな」
そういった彼は、サッカーの応援ソングを選択していた。学校で一時期流行っていた歌は、彼によって美しく歌われるのだろうと結菜はわくわくしていた。けれど次の瞬間、結菜はあまりの音に絶句した。
4分間にわたって流れ続けた音は、本当に、筆舌しがたいくらいに、あまりにもすごかった。彼の尊厳を傷つけないためにもこのような表現しかできないが、本当にある意味素晴らしかった。
耳がキーンとして意識がフラフラしている結菜を見て、彼はむすっと不本意そうな顔をする。
「………昔から歌だけはどうにもダメなんだ。楽譜は読めるし楽器も弾けるが、歌った瞬間に全てが消え去る」
「そ、そう、ですね」
「あまりの音に気絶する人間が出始めてからは人前で歌わなくなった」
「………確かに、それが良い選択かと思います」
(………今日の歌も、音痴への耐性があるわたしじゃなかったら多分気絶してますよ?)
心の中で愚痴った結菜は、彼に料理や縫い物以外の弱点があったことに安堵していた。
この世に完璧な人間なんていない。
けれど、彼はあまりにも完璧に近すぎる。努力しているのは分かっている。でも、努力では覆いきれないような輝きのある才能を感じるのだ。
(こういう部分を知れば知るほど、彼が可愛らしく見えてきますね)
ふっと息を吐いた結菜は、ハーフらしい目鼻立ちがすっきりとした俯いている彼の顔を見つめる。
ミルクティーブロンドのふわふわした猫っ毛が片目を隠し、同じくミルクティーブロンドのとても長いふさふさまつ毛が淡い氷色の冷たい瞳に影を作る。
神々が作りし最高作品と言っても過言ではないほどに美しい彼の顔立ちは、彼の努力の全てを握りつぶしているような気がする。イケメンだからなんでもできるなんている漫画や小説のようなことは現実には起こらない。でも、彼の気だるげでやる気のなさそうな表情はそういうことをどうしても連想させてしまうのだ。
(本当に、損なお顔立ちです………)
自分のことは棚にあげた結菜は、キャラメルラテの最後の1口を飲み込んだ。
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