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36 初めてのカラオケの始まり
しおりを挟むお盆の上に、キャラメルラテとココア、そして並々と注がれたポップコーンのお皿を乗せた結菜はしょげた顔をして陽翔の後を歩いていた。
向かうのは彼が手配してくれたカラオケの個室だ。どうやらパーティー部屋というちょっと豪奢なお部屋らしく、歌う以外にも楽しめる要素のあるお部屋らしい。初めての結菜にはなんだか難易度が高すぎるように感じなくもないが、これも彼の好意によるものだ。甘えないという選択肢など元から用意されていない。
「ここだな」
ぎゅっと自分で握ったお盆の中身を溢さないように気をつけながら、結菜は個室の前に書かれた部屋番号を興味深く見上げる。
「572番。5階の72番目のお部屋ということですか?」
「多分、5階7番通路の2番目の部屋という意味だと思うぞ」
「なるほど」
ふむふむと頷いた結菜は、彼が部屋の扉を開けて結菜が先に入るように促す。結菜は興奮からか喉に溜まった唾をごくんと飲み込み、1歩を踏み出した。
中は目に優しいながらも鮮やかなパステルカラーとなっていた。ふわふわのバルーンやキラキラとしたモール、大きなうさぎさんやくまさんのぬいぐるみが飾られたお部屋はとてもファンシーだ。お部屋の中はカラオケ故にもちろん完璧防音の無音。けれど、心なしか楽しそうな音楽が流れている気がするし、無臭のお部屋にはフローラルな香りが流れている気がする。そのくらい、パーティールームというのはファンシーで楽しげで、可愛らしかった。
「気に入ったか?」
結菜の後に続いた彼は結菜の反応に目を細め、柔らかく笑った。それなのにわざわざ感想を聞く彼はやっぱりちょびっとだけ意地悪だ。
「はい。とっても」
「ならよかった」
そう言った彼は結菜からお盆を奪って、あっという間に白地に可愛らしいパステルカラーでトランプ調に描かれた机の上に置いてしまう。最後まで自分で運びたかったという気持ちと、そろそろ緊張と重みで腕がどうにかなりそうだったから助かったという気持ちがせめぎ合ってどうにもソワソワしてしまう。
こうして、結菜の初めてのカラオケは始まりを迎えた。
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