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31 初めての総合アミューズメント施設
しおりを挟む夢うつつのような心地で、誰かもわからない男の子のことを思い出す。最近の結菜はほんの少し変だ。幼い頃から異性との関わりなんてなかったはずなのに、結菜は、小さい頃の思い出として多分、重たい病気を患っている男の子を思い出す。
男の人なんて、父と兄以外知らないはずなのに。
「『どうした?ゆな』」
「っ、」
夢心地だったからだろうか、一瞬、彼の姿が、振り返る仕草が、口調が、空気が、夢の中の男の子と重なる。
「『大丈夫?』」
どくどくと心臓が音を立てて、空気をひゅっと飲み込んだ。夢と現実が重なるような不可思議な感覚は、結菜の不安を掻き立てる。
でも、そんな不安も陽翔の肩にかけてあるヘッドホンを触るようなダルっとした仕草を見た瞬間に霧散した。
「だい、じょうぶです………。何も問題ありません」
(あの男の子は誰………?あなたは何なのですか?)
心の中に湧き立つ疑問をぎゅっと飲み込んで、結菜はにっこり微笑む。完成された笑みは、ちょっとやそっとのことでは揺るがない。
「そんなことよりも、カラオケというのは沢山歌を歌うところなのですよね?何を歌うのが正しいのですか?」
「お前が正しいと思うものを歌えばいい」
そう言った彼はぽんぽんと結菜の頭を撫でる。誤魔化された気もするが。やっぱり撫でられるというのは幸せな気分になるものだ。これ以上のものなんて、この世には存在していないかもしれない。
「それに、もう着いたぞ」
そう言った彼の視線の先にあったのは、大きなボーリングのピンが高いビルの上に乗っている派手な赤い建物だった。
(あれが、俗にいう総合アミューズメント施設………)
結菜はこの日、彼と手を繋いだまま不安と興奮でいっぱいの感情を胸に、人生で初めて総合アミューズメント施設に足を踏み入れた。
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