完 1週間だけ、わたしの彼氏になっていただけませんか? (番外編更新済み!!)

水鳥楓椛

文字の大きさ
上 下
28 / 95

29 初めての手作り弁当を食べる

しおりを挟む

 彼と同じ順番で食べようとおひたしに箸をつける。
 シェフお手製の特別なお酢で漬けたおひたしは、さっぱりとしていて後味が爽やかだった。コリッとした食感は耳に小気味の良い音を響かせ、お酢と一緒に漬けた柚子が爽やかな匂いを運ぶ。新鮮なお野菜をたっぷり使った故に、見た目も鮮やかだ。
 煮っ転がしにも口を口つけてみたが、柔らかい里芋とにんじんがお口の中でほろほろと崩れる感覚はくせになった。お砂糖を入れて甘味にしたが、どうやら正解だったらしい。彼も幸せそうに口に運んでくれていた。ふわっと香る甘い香りが隠し味のはちみつであることに、彼は気づいているだろうか。
 シャケの身を混ぜ込んだおにぎりを食べながら、結菜はしょっぱさに無言になってしまう。シャケは良い。炭火で朝から頑張った故に、結構美味しく出来上がっている。でも、ご飯の塩を完璧に入れすぎた。岩塩をふりかけて焼いたシャケに塩ご飯はヤバい。

「はるくん、シャケおにぎりはストッ、」
「?」
「………食べちゃったんですか?」
「ダメだった?美味しかったけど」
「ダメです。塩っぱかったです」
「そう?俺の家濃い味だったから、お袋の料理はあれくらい普通だったよ?」

 そう言ってぶりの味噌煮に手を出した彼に合わせて、結菜は味噌煮を食べ始める。白味噌、麦味噌、米味噌、赤味噌を合わせた特製味噌で調理した味噌煮は、ほのかな甘さ強めで結菜には満足な出来栄えだった。素朴な感じがたまらない。ぶりはちゃんとほろほろお口の中で崩れてくれるし、中までお味噌が染みている。自家製お味噌(シェフ作)は存外最強だったかもしれないと思いながら、成功要因が自分ではないことに、結菜は若干沈む。

「ん、どれも美味い」

 そう言いながら、2個目のはちみつで漬けた梅の種を除いて身だけをご飯に混ぜ込んで握った梅おにぎりを食べ始めた彼は、一瞬驚いた顔をしてから、他と変わらぬペースでおにぎりを再び食べ始めた。

「ど、どこか変、でしたか?」
「ん?あぁ、俺の家紫蘇漬けの梅しか出ないから、はちみつ漬けの梅ってめっちゃ美味いんだなって驚いてた」
「そう、ですか………」

 実家でははちみつ漬けしか出てきたことがない故に、結菜は逆に驚いた。紫蘇漬けの梅への興味にうずうずしていると、彼は少し苦笑した。

「明日は俺がゆなと俺のお昼作ってこよっか?」
「っ、よ、よろしいのですか?」
「あぁ。家庭の味に興味があるんだろ?」
「はい」

 頬が緩むのを感じながら、結菜は自分の分の梅おにぎりを口に運ぶ。甘しょっぱさが口の中に広がって食欲を誘う。酸っぱいものが苦手な結菜の兄唯斗用に作られた甘い梅干しは、幼い頃から当たり前となっていたことに、結菜は今更ながらに気がついた。

「ゆなはいつもこんな弁当食ってるのか?」
「いいえ、いつもはもっとちゃんとしていますよ、今日はわたしの初手作りなので、結構不格好です。申し訳ありません」

 深々と頭を下げると、頭上からため息が聞こえた。

「お前が俺に作ってくれたという事実に意味があるんだ。頭を下げるな。あと、………弁当、美味い」

 ぶっきらぼうな声と共に、今までよりも雑に頭を撫でられて、結菜はぐわんぐわんする頭をふるふるすることになってしまった。

(はるくんは、時々とっても意地悪です………)

 赤い顔を隠すように俯いた結菜は、次のおかずに箸を向けた。

*************************

読んでいただきありがとうございます🐈🐈🐈

しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

忙しい男

菅井群青
恋愛
付き合っていた彼氏に別れを告げた。忙しいという彼を信じていたけれど、私から別れを告げる前に……きっと私は半分捨てられていたんだ。 「私のことなんてもうなんとも思ってないくせに」 「お前は一体俺の何を見て言ってる──お前は、俺を知らな過ぎる」 すれ違う想いはどうしてこうも上手くいかないのか。いつだって思うことはただ一つ、愛おしいという気持ちだ。 ※ハッピーエンドです かなりやきもきさせてしまうと思います。 どうか温かい目でみてやってくださいね。 ※本編完結しました(2019/07/15) スピンオフ &番外編 【泣く背中】 菊田夫妻のストーリーを追加しました(2019/08/19) 改稿 (2020/01/01) 本編のみカクヨムさんでも公開しました。

偽装夫婦

詩織
恋愛
付き合って5年になる彼は後輩に横取りされた。 会社も一緒だし行く気がない。 けど、横取りされたからって会社辞めるってアホすぎません?

睡蓮

樫野 珠代
恋愛
入社して3か月、いきなり異動を命じられたなぎさ。 そこにいたのは、出来れば会いたくなかった、会うなんて二度とないはずだった人。 どうしてこんな形の再会なの?

社長室の蜜月

ゆる
恋愛
内容紹介: 若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。 一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。 仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

忘れられたら苦労しない

菅井群青
恋愛
結婚を考えていた彼氏に突然振られ、二年間引きずる女と同じく過去の恋に囚われている男が出会う。 似ている、私たち…… でもそれは全然違った……私なんかより彼の方が心を囚われたままだ。 別れた恋人を忘れられない女と、運命によって引き裂かれ突然亡くなった彼女の思い出の中で生きる男の物語 「……まだいいよ──会えたら……」 「え?」 あなたには忘れらない人が、いますか?──

処理中です...