25 / 95
25 申告とお約束と
しおりを挟む▫︎◇▫︎
3日目の朝、結菜は登校してすぐにたくさんの生徒に囲まれていた。
「双葉さん!昨日デートしたって本当ですか!?」
「キャラメルマキアート、美味しかったですか!?」
「月城さんが意外にも甘党って本当ですか!?」
叫ぶようにして質問される内容に微笑みながら無言を貫く結菜の手には、力が入っていた。
(この学校には、プライバシーというものが存在していないのでしょうか)
いつもどこからか流される噂話に、逐一周囲の会話の肴として回っている日々の行動。監視されているようで少しだけ怖気が走る。
「………………」
「………おはよう、ゆな」
「っ、お、おはようございます、はるくん」
唐突に頭をぽんと撫でられてびっくりしていると、横に現れた陽翔に眠そうな挨拶をされた。結菜は目をぱちぱちとさせたまま挨拶を返して、ぎゅっと彼のブレザーの裾を握った。
「?」
「へっ!?あ、え、えっと、これは、ですね………」
あまりに無意識のうちに彼のブレザーの裾を握ってしまったが故に、結菜は何も言えなくなってしまう。
「………一緒に行くか?」
「ーーーよろしいのですか?」
「あぁ」
当然のように頷いたのちに結菜の手を握った彼は、躊躇いなく結菜を学校へとエスコートする。格式ばったものではないのに、なんだかとても緊張する。
「………昨日の怒ってたやつ、なんでか結局分からなかった」
ぼーっとした風に言った彼に、結菜は苦笑する。
「そう、ですか………」
「だから、教えろ」
「え、」
あまりにも驚いて立ち止まると、結菜はじっと彼の瞳を見つめた。
「………気になりますか?」
できれば何も言いたくないけれど、結菜は彼の真面目な水色の瞳に誘われて、口を開く。
「休み時間、………1人で寂しかっただけです」
何を馬鹿げたことを言っているのだと苦笑しながら、結菜は彼の手から自分の手を滑り落ちさせた。頭から血の気が引いて、目の前がくらくらしてくる。
「………休み時間になれば、起こせばいい」
淡々と言った彼は、もう結菜と視線を合わせてくれない。やってしまったという後悔に苛まれながら、結菜は彼のあとを追うようにして学校の校舎に入る。
(………わたしは本当にお馬鹿ですね)
誰にも愛されない。
愛される資格もない。
嫌というほどに理解している結菜は、自分の行動が愚かだったのかを再確認しながら、横目で整いすぎた彼の容貌を盗み見た。
「今日、」
「?」
「………今日の放課後どこに行きたい」
当たり前のように聞かれて、結菜は目をぱちぱちとさせた。
今日はなんだか驚いてばかりな気がする。
「ーーーまだ、連れて行ってくださるのですか?」
「………………」
「あんなことを、言ったのに………?」
「………はぁー、どこに行きたい」
有無を言わせぬ声音で尋ねられて、結菜はくちびるが綻んでいくのを感じた。自分じゃ全く制御できない感情を持て余しながら、結菜はほくほくとした気分で行きたいところを指折り数える。
「カラオケにボーリング、スポッチャにショッピングモール、公園にプール、海水浴場やお祭り、回転寿司にファミリーレストラン、居酒屋や屋台にも行ってみたいです」
「………海水浴と祭りは流石にきついな………。居酒屋と屋台は………、まぁどうにかなるか」
ぼそぼそ言っている彼に首を傾げた結菜は、じっと彼の瞳を見つめる。
「………今日は、どこに連れて行ってくださいますか?」
勇気を出して震える声で問いかけると、一瞬悩むそぶりを見せた彼は、手をぐーぱーとしたあとに僅かに頷いて、結菜のことを真っ直ぐ射抜く。
「カラオケ、ボーリング、スポッチャ、回転寿司に連れて行ってやる」
律儀に宣言した彼に目を輝かせた結菜は、ふわっとくちびるを綻ばせた。
「ありがとう、ございます」
折れかけていた心に優しい水を注がれて、結菜は幸せな気分になった。
けれど、そんな都合のいい時間は長続きしない。結菜はあっという間に教室に着いてしまった。落胆を隠し切ることができない結菜を、陽翔はじっと見つめたあとに優しく撫でる。ぽんぽんと頭に触れると、さらさらとした漆黒の髪が指に心地よい感覚を与えてくれる。
(は、恥ずかしいです………)
黙ってされるがままに撫でられた結菜は、やがてあまりの恥ずかしさにぎゅっと縮こまった。
ーーーキーンコーンカーンコーン、
「あ………、」
鳴り始めたチャイムの音に残念だと思いながら、結菜は自分の席に着くために、踵を返したのだった。
「………ーーーまた、昼休みに」
耳元で囁かれた言葉に喜びを隠せない結菜は、多分悪い方向に進んでいた。
*************************
読んでいただきありがとうございます🐈🐈🐈
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
本日、私の大好きな幼馴染が大切な姉と結婚式を挙げます
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
本日、私は大切な人達を2人同時に失います
<子供の頃から大好きだった幼馴染が恋する女性は私の5歳年上の姉でした。>
両親を亡くし、私を養ってくれた大切な姉に幸せになって貰いたい・・・そう願っていたのに姉は結婚を約束していた彼を事故で失ってしまった。悲しみに打ちひしがれる姉に寄り添う私の大好きな幼馴染。彼は決して私に振り向いてくれる事は無い。だから私は彼と姉が結ばれる事を願い、ついに2人は恋人同士になり、本日姉と幼馴染は結婚する。そしてそれは私が大切な2人を同時に失う日でもあった―。
※ 本編完結済。他視点での話、継続中。
※ 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています
※ 河口直人偏から少し大人向けの内容になります

【完結】お姉様の婚約者
七瀬菜々
恋愛
姉が失踪した。それは結婚式当日の朝のことだった。
残された私は家族のため、ひいては祖国のため、姉の婚約者と結婚した。
サイズの合わない純白のドレスを身に纏い、すまないと啜り泣く父に手を引かれ、困惑と同情と侮蔑の視線が交差するバージンロードを歩き、彼の手を取る。
誰が見ても哀れで、惨めで、不幸な結婚。
けれど私の心は晴れやかだった。
だって、ずっと片思いを続けていた人の隣に立てるのだから。
ーーーーーそう、だから私は、誰がなんと言おうと、シアワセだ。

まだ余命を知らない息子の進吾へ、親から生まれてきた幸せを…
ひらりくるり
ファンタジー
主人公、三河 愛美の息子である三河 進吾は小児がんにかかってしまった。そして余命はあと半年と医者から宣告されてしまう。ところが、両親は7歳の進吾に余命のことを伝えないことにした。そんな息子を持つ両親は、限られた時間の中で息子に"悔いの無い幸せな生き方"を模索していく…そこで両親は"やりたいことノート"を進吾に書かせることにした。両親は進吾の"やりたいこと"を全て実現させることを決意した。
これは悲しく辛い、"本当の幸せ"を目指す親子の物語。


【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる