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25 申告とお約束と
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3日目の朝、結菜は登校してすぐにたくさんの生徒に囲まれていた。
「双葉さん!昨日デートしたって本当ですか!?」
「キャラメルマキアート、美味しかったですか!?」
「月城さんが意外にも甘党って本当ですか!?」
叫ぶようにして質問される内容に微笑みながら無言を貫く結菜の手には、力が入っていた。
(この学校には、プライバシーというものが存在していないのでしょうか)
いつもどこからか流される噂話に、逐一周囲の会話の肴として回っている日々の行動。監視されているようで少しだけ怖気が走る。
「………………」
「………おはよう、ゆな」
「っ、お、おはようございます、はるくん」
唐突に頭をぽんと撫でられてびっくりしていると、横に現れた陽翔に眠そうな挨拶をされた。結菜は目をぱちぱちとさせたまま挨拶を返して、ぎゅっと彼のブレザーの裾を握った。
「?」
「へっ!?あ、え、えっと、これは、ですね………」
あまりに無意識のうちに彼のブレザーの裾を握ってしまったが故に、結菜は何も言えなくなってしまう。
「………一緒に行くか?」
「ーーーよろしいのですか?」
「あぁ」
当然のように頷いたのちに結菜の手を握った彼は、躊躇いなく結菜を学校へとエスコートする。格式ばったものではないのに、なんだかとても緊張する。
「………昨日の怒ってたやつ、なんでか結局分からなかった」
ぼーっとした風に言った彼に、結菜は苦笑する。
「そう、ですか………」
「だから、教えろ」
「え、」
あまりにも驚いて立ち止まると、結菜はじっと彼の瞳を見つめた。
「………気になりますか?」
できれば何も言いたくないけれど、結菜は彼の真面目な水色の瞳に誘われて、口を開く。
「休み時間、………1人で寂しかっただけです」
何を馬鹿げたことを言っているのだと苦笑しながら、結菜は彼の手から自分の手を滑り落ちさせた。頭から血の気が引いて、目の前がくらくらしてくる。
「………休み時間になれば、起こせばいい」
淡々と言った彼は、もう結菜と視線を合わせてくれない。やってしまったという後悔に苛まれながら、結菜は彼のあとを追うようにして学校の校舎に入る。
(………わたしは本当にお馬鹿ですね)
誰にも愛されない。
愛される資格もない。
嫌というほどに理解している結菜は、自分の行動が愚かだったのかを再確認しながら、横目で整いすぎた彼の容貌を盗み見た。
「今日、」
「?」
「………今日の放課後どこに行きたい」
当たり前のように聞かれて、結菜は目をぱちぱちとさせた。
今日はなんだか驚いてばかりな気がする。
「ーーーまだ、連れて行ってくださるのですか?」
「………………」
「あんなことを、言ったのに………?」
「………はぁー、どこに行きたい」
有無を言わせぬ声音で尋ねられて、結菜はくちびるが綻んでいくのを感じた。自分じゃ全く制御できない感情を持て余しながら、結菜はほくほくとした気分で行きたいところを指折り数える。
「カラオケにボーリング、スポッチャにショッピングモール、公園にプール、海水浴場やお祭り、回転寿司にファミリーレストラン、居酒屋や屋台にも行ってみたいです」
「………海水浴と祭りは流石にきついな………。居酒屋と屋台は………、まぁどうにかなるか」
ぼそぼそ言っている彼に首を傾げた結菜は、じっと彼の瞳を見つめる。
「………今日は、どこに連れて行ってくださいますか?」
勇気を出して震える声で問いかけると、一瞬悩むそぶりを見せた彼は、手をぐーぱーとしたあとに僅かに頷いて、結菜のことを真っ直ぐ射抜く。
「カラオケ、ボーリング、スポッチャ、回転寿司に連れて行ってやる」
律儀に宣言した彼に目を輝かせた結菜は、ふわっとくちびるを綻ばせた。
「ありがとう、ございます」
折れかけていた心に優しい水を注がれて、結菜は幸せな気分になった。
けれど、そんな都合のいい時間は長続きしない。結菜はあっという間に教室に着いてしまった。落胆を隠し切ることができない結菜を、陽翔はじっと見つめたあとに優しく撫でる。ぽんぽんと頭に触れると、さらさらとした漆黒の髪が指に心地よい感覚を与えてくれる。
(は、恥ずかしいです………)
黙ってされるがままに撫でられた結菜は、やがてあまりの恥ずかしさにぎゅっと縮こまった。
ーーーキーンコーンカーンコーン、
「あ………、」
鳴り始めたチャイムの音に残念だと思いながら、結菜は自分の席に着くために、踵を返したのだった。
「………ーーーまた、昼休みに」
耳元で囁かれた言葉に喜びを隠せない結菜は、多分悪い方向に進んでいた。
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