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17 初めてのデートの約束
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次の日の早朝、誰もいない食卓で結菜はナイフとフォークを使ってフレンチトーストを食べる。
彩鮮やかなお料理たちも、結菜にとってみればつまらない日常の一コマでしかない。ただただ寂れた、楽しみのない日常の一コマ。
「行って参ります」
誰も返事はしてくれない。
結菜の目に映るのは深々と頭を下げたメイドの背中だけ。
昨夜も、父も母も兄も帰ってはこなかった。
大きな屋敷に、結菜はいつもひとりだ。
(仕方がありません。全て、わたしが悪いのですから………)
学校に微笑みを浮かべて登校すると、沢山の人が挨拶をしてくれる。
下心ばかりの挨拶に微笑みを返し続けるのは疲れる。
「………おはよう、ゆな」
「!!」
でも、陽翔の優しい挨拶は好きかもしれない。
「おはようございます、はるくん」
今日は、彼のお名前を間違えずに呼べた。昨日の夜、お布団の中で必死に練習し続けた甲斐があるものだ。
「………今日、放課後空いてる?」
「はい、空いています。というか、秘書を通じて父にお願いして、結婚までずっと自由にしていただきました。………結婚したら、自由なんて存在しなくなるでしょうから」
思わずふっと笑うと、彼は眉間に皺を寄せた。何が彼を不愉快にしてしまったのか、結菜には分からない。
「………放課後、デートに行こう」
「ーーーよろしいのですか?」
「あぁ、………行きたいところはあるか?」
「………ブックカフェに行ってみたい、です」
「ん、分かった」
ぽんぽんと頭を撫でられると、結菜はついついいつもと違う笑顔を浮かべてしまう。
「っ、………その笑顔反則」
「?」
赤らめた顔で口元を押さえた彼は、再びヘッドホンを身につけて先々歩いていく。
「あ、ま、待ってください………!!」
彼の後ろに続くようにして、結菜は小走りで校舎に入っていく。
初めてしたデートの約束は、結菜がずっと行ってみたかった『ブックカフェ』に決定した。
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読んでいただきありがとうございます🐈🐈⬛🐈
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