上 下
13 / 95

13 初めてのミートスパゲッティー

しおりを挟む

「じゃあ、次は俺の番ね。はい、あーん」
「!?」

 口元にほかほかと温かそうなミートスパゲッティーを持ってこられた結菜は、困惑顔で口元を押さえた。

「ほらほら、食べないの?」
「た、たべ、食べたい、ですが………」
(それは自分の手であって、………月城さんのお手々では無いと言うかですね………)

 心の中で言い訳しながらも、結菜の視線は目の前にぶらぶらされているフォークに巻かれているスパゲッティーに釘付けだった。
 新鮮なひき肉とお野菜がたっぷりと使われているであろう食欲を誘う赤茶のミートソースに、プロならではの絶妙な硬さに調節されているであろうスパゲッティー。ふわふわと漂う匂いからは、しっかりと煮込まれたトマト特有の甘酸っぱい匂いが漂ってきている。

「………冷めちゃうし、もう俺が食べちゃおっかな~」
「!」

 陽翔の言葉に結菜は分かりやすく慌てて、がぷっと勢いよく彼のフォークに齧り付いた。

「ん~!!ーーー美味しいです!!」

 口の中に入れた瞬間にふわっと広がる濃厚なトマトソースとお肉のジューシーさに、結菜は口元を押さえてきらきらとした視線を彼に向けた。
 ミートスパゲッティーのソースは想像通り、お肉とお野菜がことこと煮込まれて、ぐっと甘みが詰め込まれていた。
 見た目通りの食べ応え抜群な味付けに、スパゲッティーの想像を通り越すくらいに絶妙で完璧な茹で加減。
 甘美な組み合わせに、結菜はついつい夢中になってしまう。

「そりゃよかった。ほら、あーん」
「あ~ん!」

 恥ずかしくて仕方がなかったはずの行為も、美味しい美味しいミートスパゲッティーの前では普通に出来てしまう。
 羞恥は、美味しいものの前では見事に消え失せてしまうらしい。

「ふっ、」
「?」
「ほらほら、もっとお食べ」

 揺れるフォークの先にあるスパゲッティーを美味しそうに頬張る結菜に、陽翔は優しい視線を向ける。

「ーーーあれ?………次は?」
「もう無いよ」
「!?」
「ははっ、そんな悲しそうな顔しなくても」

 よしよしと頭を撫でられた結菜は、けれどショックを隠せない。

(も、もっと食べたかったです。………恐るべし、美味しい美味しいミートスパゲッティー)

 空になってしまった寂しいお皿を見つめながら、結菜はしょぼんと項垂れた。

*************************

読んでいただきありがとうございます🐈🐈‍⬛🐈

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ずぶ濡れで帰ったら彼氏が浮気してました

宵闇 月
恋愛
突然の雨にずぶ濡れになって帰ったら彼氏が知らない女の子とお風呂に入ってました。 ーーそれではお幸せに。 以前書いていたお話です。 投稿するか悩んでそのままにしていたお話ですが、折角書いたのでやはり投稿しようかと… 十話完結で既に書き終えてます。

2番目の1番【完】

綾崎オトイ
恋愛
結婚して3年目。 騎士である彼は王女様の護衛騎士で、王女様のことを何よりも誰よりも大事にしていて支えていてお護りしている。 それこそが彼の誇りで彼の幸せで、だから、私は彼の1番にはなれない。 王女様には私は勝てない。 結婚3年目の夫に祝われない誕生日に起こった事件で限界がきてしまった彼女と、彼女の存在と献身が当たり前になってしまっていたバカ真面目で忠誠心の厚い騎士の不器用な想いの話。 ※ざまぁ要素は皆無です。旦那様最低、と思われる方いるかもですがそのまま結ばれますので苦手な方はお戻りいただけると嬉しいです 自己満全開の作品で個人の趣味を詰め込んで殴り書きしているため、地雷多めです。苦手な方はそっとお戻りください。 批判・中傷等、作者の執筆意欲削られそうなものは遠慮なく削除させていただきます…

十年目の離婚

杉本凪咲
恋愛
結婚十年目。 夫は離婚を切り出しました。 愛人と、その子供と、一緒に暮らしたいからと。

愛すべきマリア

志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。 学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。 家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。 早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。 頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。 その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。 体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。 しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。 他サイトでも掲載しています。 表紙は写真ACより転載しました。

睡蓮

樫野 珠代
恋愛
入社して3か月、いきなり異動を命じられたなぎさ。 そこにいたのは、出来れば会いたくなかった、会うなんて二度とないはずだった人。 どうしてこんな形の再会なの?

地味系秘書と氷の副社長は今日も仲良くバトルしてます!

めーぷる
恋愛
 見た目はどこにでもいそうな地味系女子の小鳥風音(おどりかざね)が、ようやく就職した会社で何故か社長秘書に大抜擢されてしまう。  秘書検定も持っていない自分がどうしてそんなことに……。  呼び出された社長室では、明るいイケメンチャラ男な御曹司の社長と、ニコリともしない銀縁眼鏡の副社長が風音を待ち構えていた――  地味系女子が色々巻き込まれながら、イケメンと美形とぶつかって仲良くなっていく王道ラブコメなお話になっていく予定です。  ちょっとだけ三角関係もあるかも? ・表紙はかんたん表紙メーカーで作成しています。 ・毎日11時に投稿予定です。 ・勢いで書いてます。誤字脱字等チェックしてますが、不備があるかもしれません。 ・公開済のお話も加筆訂正する場合があります。

長い片思い

詩織
恋愛
大好きな上司が結婚。 もう私の想いは届かない。 だから私は…

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

処理中です...