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国を捨てたあと

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▫︎◇◻︎

 後に、『混沌との結婚式』と呼ばれることになるジュリアンヌとレアンドルの結婚式、否、ミュリエラとレアンドルの結婚式から1年という月日が流れた。

 結婚式前に用意していた馬車に乗り込み隣国へと逃げ込んだジュリアンヌとアレクサンドルは、家名を捨て、名誉を捨て、一回の平民として自然が豊かなとある領地でのんびりと暮らしていた。

 膝裏まで長く伸ばしていた黒髪を胸下でバッサリと切り揃えたジュリアンは木陰に置いた木製の揺り椅子に座り、穏やかな表情で眠っている。そんな彼女の腹は大きく膨らんでおり、彼女が出産間近の妊婦であることが伺えた。

 そんな領地で1番の美女であり、才女であると言っても過言ではない彼女の寝姿を拝もうと彼女たちの住む屋敷の柵の前に立った男たちは、一瞬の後に全てを諦める。
 何故なら、美しい彼女の隣には、今日もグレーアッシュの髪を持つ美丈夫が佇んでいるからだ。
 穏やかな表情で一切の隙のない立ち居振る舞いをするアレクサンドルに、領地の若い男たちジュリアンヌに淡い恋心を寄せる男たちはほぼ全員コテンパンにされた経験を持つ。いわばトラウマが彼女を拝むことを拒むのだ。

 男たちは渋々自らの家へと帰宅する。
 淡い恋心が、いつか過去のものになることを願って———。

 そんな男たちを穏やかな表情かつ冷たい瞳で見つめていたアレクサンドルは、むにゅむにゅとくちびるを動かしたジュリアンヌの美しい藍玉の瞳が、望洋に開かられるのを見つめる。

「おはよう、アンヌ」
「ん、おはよう。アレク」

 ふぁうっと間抜けな欠伸をこぼした彼女の手には、1組の新聞が握られている。

「? それは?」
「読みたい?」
「俺には読ませたくないの?」

 自分の頭に顎を乗せすりすりと甘えてきたアレクサンドルの頭を優しく撫でたジュリアンヌは、自分の手に持っていた新聞を彼に手渡す。

「———これは………、」

 紙面に大きく書かれているのは、レアンドルの自殺を報じるゴシップ。
 そこに描かれている題名は『リスカ令嬢の華麗なる復讐劇』。

「………今すぐにコレを書きやがった記者を」
「待ちなさい」

 殺気立って出て行こうとしたアレクサンドルの腕を素早く掴んだジュリアンヌは、ころころと愛らしく苦笑する。

「何も、リストカットをしている少女がわたくしだけというわけがないでしょう?」
「ん?」

 困惑顔の大好きな夫の頭をわしゃわしゃと撫でながら、ジュリアンヌは歌うように言葉を紡ぎ始めた。

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読んでいただきありがとうございます🐈🐈🐈

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