永遠を生きる魔女と元王子の使い魔くん 〜永遠を生きる魔女と世界を恨んでいる元王子の初恋は、全世界を敵に回す〜

1章 幸せの花園

65 エレオノーラの努力 (2)

「ねぇ、ノアぁ」
「なんでしょう、魔女さま」

　彼女の髪を結い終え、尾への軽いお掃除を始めたノアは、困ったように艶やかな笑みを浮かべている魔女に首を傾げる。
　魔女はノアの行動に、言葉に、青いリップの塗られたくちびるをゆっくりと湿らせた。

「無理しなくてもぉ、いいのよぉ？」
「………無理などしていませんよ。無理をしているとしたら、それはおそらく………………、」

　目の下に出来始めた薄い隈の存在に気がついているノアは、エレオノーラがどれだけの苦労を重ねているのかを知っている。侯爵令嬢として何不自由ない生活を営んできた彼女が、森の奥深くで自給自足の生活に身を投じていることがそもそも信じられないのだ。

　———早急すぎる不自然な成長の裏には、圧倒的な犠牲が存在している。

　自分の身体を痛めつけてまで強さを求め続けているノアには、それが痛いほどによく理解できていた。

　けれど、ノアは彼女を止められなかった。
　それほどまでのことをするのに、どれほどの決意が必要なのかを、ノアはよく理解していたからだ。決意を、やる気を、損なわせたくはなかった。せっかくの努力に、賞賛以外の音を上げたくなかった。

「さあ、朝食を食べに行きましょう。魔女さま。エレオノーラ嬢が一生懸命に作ってくれた朝食。せっかくですから、温かいうちにいただかなくては失礼です」
「そうだねぇ」

　のんびりと頷いた魔女に、ノアは微笑む。
　たとえどんなに自分が居心地が悪くなってしまったのだとしても、ノアは他人を否定したくはない。

　だって、ノアは“王子さま”だから。

　“王子さま”はみんなを包み込める包容力と優しさ、度量の大きさを示さなければならない。たとえそれがどんなに辛くとも、痩せ我慢は王家に生まれた者の宿命だ。

　———大丈夫。僕は、何があっても、頑張れる。


＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊

読んでいただきありがとうございます🐈🐈🐈