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1章 幸せの花園
62 僕なんか (1)
しおりを挟むノアはその日から早速魔力制御の訓練を始めた。こればかりはズルの道で強くなれないために、地道な訓練をする他ない。
———回り道ってこんなにも苦しかったっけ………?
夜中、お布団の中でただただ魔力を丁寧に丁寧に身体中に循環させながら、ノアは首を傾げる。地道なお勉強であったとしてもここまで、焦ったさに苦しさを覚えたことがないゆえに、ノアはむしゃくしゃとしてしまう。
「あ、」
一瞬心を乱してしまったのが悪かったたのだろうか、魔力の循環が僅かに滞り、量が一定でなくなる。
———僕は、こんなにも未熟だったんだ………、
感情の揺らぎだけで魔力が歪むのは下の下である証拠。あまりにもまざまざと突きつけられて、ノアは泣きそうになってしまう。けれど、努力するしかない。ノアには、天性の圧倒的な才能も、努力なしでなんでもそつなくこなすことができる器用さも持ち合わせていないのだから。
「………もう、誰も失いたくない」
何度も何度も辛酸を舐めさせられ、ノアでは何も成し遂げられないと突きつけられた。苦しくて、悲しくて、諦めたくて仕方がなくて、けれど、頑張るしかなくて、心がぐちゃぐちゃにかき乱される。魔女に向けて格好いい宣言をしたとしても、高い目標を掲げたとしても、心が軽くなることは決してない。それどころか、ずっとずっと苦しいままだ。
泣き叫びたくて、逃げ出したくて仕方がない。逃げても、泣いても、何にも解決しないのに、無意味なことに時間を使いたくなってしまう。
人間は、いくつもの無意味や矛盾を抱えて生きる、不思議な生き物だ。
獣のように思考も持たず、ただ生きるために行動するなんていうことよりも、無意味や矛盾を愛している。
———魔女になれば………、
思考を一瞬言葉の方向に向けかけたノアは、慌てて首を横に振った。
「………楽な方向に逃げようとするのは、僕の悪い癖だ。ちゃんと、直さなきゃ………………、」
自分の言葉が自分に刺さる。
逃げるなって言われているような心地がして、苦しくなる。
ノアだって逃げたくて逃げているわけではない。
逃げざるを得なくて逃げているだけだ。
募りゆく苦し紛れの言い訳に、嫌気がさす。
「なんで、僕なんかが生き残っちゃったんだろう………、」
*************************
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