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1章 幸せの花園
60 虚空の夢うつつ (1)
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身体が重い。
自由に動かない。
けれど、———心地いい。
不思議な感覚に包まれているノアは、口を開けた瞬間にかぽっと入ってきたものを反射で飲み込んだ。
この感覚を、ノアはなんとなく知っている。
生まれる前から知っている。
羊水に包まれていたときのような絶対的な安心感を、知らないわけがない。
この世に生まれる全員が、この心地よさを、安心感を、胸の暖かさを、知っているはずだ。
だって、———親に愛されたことがないノアですらも、ちゃんと知っているのだから。
ここがどこか、ここで何をしているのか、ノアは分からない。
そのはずなのに、この非現実的な感覚が現実に起こり得ないことを、ノアは知っている。
矛盾とまとまらない思考の中、ノアは水の中でぷかぷかと迷路の中にいるように、当て所なく彷徨い続ける。
出口なんてわからない。
出ようなんて思わない。
それなのにも関わらず、出口がわからないことへの漠然とした不安感が胸の中を濃い霧で覆い込んでいる。
———帰らなきゃ。
呆然と呟く。
———どこに?
自身で問いかけ、自身が首を傾げる。
纏まらない思考は不思議なことを考えては一瞬の後に霧散させるということを、何度も何度も繰り返させる。
その行動に意味はあるのだろうか。
少なくとも、ノアにはその意味を、意義を、全くもって見出せない。
にも関わらず、ノアの心はこの時間が必要なんだと叫んでいる。
どれが、どちらが、何が正しいかなんて、ノアには分からない。
今まで分かろうとしてこなかったから、判断さえもできない。
*************************
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