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1章 幸せの花園
59 魔法は救いか禍か。 (3)
しおりを挟む彼女の世界には救いがあったのだろうか。
忘れ行く記憶に怯え、学んだことの忘却に絶望し、育んだ感情を失うことに生きる気力さえも奪われつつあった彼女に、喜びなんてなかっただろう。
現に、彼女の日記には喜びには悲観が共なっていた。
嬉しいことも、楽しいことも、歓喜も、………彼女の中からは全て消えていってしまう。
味わってすぐに、失ってしまう。
3日というタイムリミットは、彼女にとってどんなにも短いものだったのだろうか。
ノアはリュシエンヌではないから、彼女の真の心なんてものを理解することは到底できない。
記憶を失う苦しみも、悲しみも、絶望も、ノアにはイマイチ理解できていない節がある。
けれど、これだけはわかる。
リュシエンヌにとってソレを知られるということは、自死をも選んでしまうくらいの絶望を孕んでいたということだ。
ノアにとって魔法は救いだった。
叔父であり、両親や臣下の仇であり、王簒奪者であり、現国王であるカイゼンに唯一対抗し得る、武器だ。
けれど、今ではその考え方が正しいのかすらもわからなくなってきた。
ノアの身体は、今、ボロボロだ。
禁忌の訓練を用いて幾度も強くなっているが故に、魔力回路に異常をきたし始めている。内臓も、筋繊維も、精神さえも、着実に汚染され始めている。
無事に強くなれたとしても、無事に全ての仇討ちを成功させたとしても、無事に王位を取り戻せたとしても、ノアの命はきっと………長くはない。
何度も何度も身体を内側から破壊しているのだから、当然の報いだ。
最近、ノアは魔法のことを純粋な救いだとは思えなくなってきた。
それどころか、
これは、
———禍だ。
世界が暗転する、魔力がごっそり持って行かれて、激しい吐き気が全身を覆う。
苦しい。
辛い。
狂ってしまいたい。
でも、リュシエンヌはもっと苦しい思いをしたのだと思うと、全くもって狂えなくなってしまったのだった———。
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読んでいただきありがとうございます🐈🐈🐈
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