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1章 幸せの花園
58 苦しい。ただただ、苦しい。 (2)
しおりを挟む何度神に懺悔しようとも覆らないであろう真実に、心の奥底に宿る心は絶望か、はたまた苦痛か………。
ノアの心は、叔父によって全てを蹂躙されたあの日あの瞬間に、多分ほとんどが壊れてしまった。
否、そのずっとずっと昔から壊れていたのかもしれない。けれど、魔女の暖かさに触れ、ノアの心はその本来の輝きを取り戻しつつある。
だからだろうか、ノアの心はずっと苦しい。ずっと悲しい。ずっと………寂しい。
どこがなんて説明できないのに、何がなんて具体性はないのに、どこまで行っても、寂しくて苦しくて辛くて悲しい。
具体性がないからこその抽象具合が、意味がわからないぐらいに気持ち悪い。
しんと静まり返った部屋を振り返っても、そこには何もない。
否、ちゃんとものはあるし、先ほど飛び散ってしまった赤いものも咲き誇っている。
それなのに、………何もないように感じる。
また、ノアと魔女だけの生活が始まる。
静かで、穏やかで、変化のない、惰性的で安定した日々。
そこには、恐怖も、苦痛も、煩悩も、何もない。
ノアが心の奥底で願っている平穏のみが存在している。
自らの望みを体現したかのような空間に、なんの文句があるんだと自らを問いただしたくなる。詰問したくなる。
問いただして、追い込んで、そして、………誤りを見つけなければと思ってしまう。
この空間は、どこか壊れている。
花園に囲まれた、小さな小さな魔女の庵。
幸せの詰まった、穏やかな庵。
それなのに、そうであるのにも関わらず、他に何を望むのだろうか。
ノア自身が思っていることであるのにも関わらず、ノアは自らが何を望んでいるのか全くもってわからない。
それどころか、ここでぬるま湯のような生活を続けているうちに、どこに疑問を持ったのかすらも、あやふやになってきている。
沼に嵌る。
泥に囚わる。
———僕は、どこに逃げればいいんだ………、
*************************
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