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1章 幸せの花園
57 終わりは唐突に (1)
しおりを挟むかたん、
かしゃん、
軽やかな音と共に、ものが落ちて割れる涼やかな音色が耳に響く。
まるで時が止まってしまったかのような、永遠にも感じられる静寂と停滞に、ノアは、全身を強張らせた。
喉が、くちびるが、指が、全身が凍てつく。
寒くて寒くて仕方がない。
一瞬のうちに流れる全てが、ノアの神経を大きく消耗させる。
「よん、………だの?」
今にも泣き出してしまいそうな、否、そんな可愛いものじゃない。
今にも壊れてチリチリになってしまいそうな弱々しい声に、ノアはぎゅっと全身を強張らせる。
幾重もの修羅場を潜り抜けてきた歴戦の猛者であるノアは、直感的に、この問いが未来を大きく揺るがす選択であるということを、悟っていた。感じ取っていた。
喉がカラカラに乾く。
くちびるが震える。
歯がカタカタと醜い苦鳴をあげる。
何が正しいのか、どう動くべきなのか、何が最適解なのか、ノアには想像することさえもが難しい。
1歩間違えれば、今の平穏は全て消え去ってしまうだろう。
そのくらい、リュシエンヌのひみつは、彼女そのものを揺るがすほどに大層なものであった。
「………落とした時に空いたページを見ただけだ。大事なものな、」
「ぃや、」
「………り、リュシー?」
「いや、」
「———っ!リュシエンヌっ!!」
「いやああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
ピンと張り詰めていた空気が、一気に殴り飛ばされ、絶叫が魔力を暴走させる。
上下、前後、左右、全てがわからなくなるほどの激情という名の濁流が土石流となって、全てを飲み込み破壊し始める。
魔力が渦巻き、竜巻を生む。
魔力全てが風になってありとあらゆるものを押し流し、破壊する。
そこに、感情や道徳なんていうものはない。
あるのはただ、『壊したい』という抗い難い絶望に富んだ欲求のみ。
助けて。
苦しいよ。
母さん。
怖いよ。
いやだよ。
助けて、助けて、助けて助けて、助けて助けて助けて、助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて………!!
リュシエンヌの幼さが滲み出ている苦しみが、絶叫が、ノアの心に深く、深く、突き刺さる。
助けたいのに、手を差し伸べたいのに、全くもって………手が届かない。
*************************
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