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1章 幸せの花園
56 リュシエンヌのひみつ (2)
しおりを挟む落ちたノートを拾おうとした瞬間、換気のために開けていた窓から優しい風が吹き込む。
陽気な空気はふわっと包み込むように、部屋を暖めてくれる。
一瞬外を見つめたノアは、すぐにノートへと視線を戻す。
瞬間、ノートの1ページ目に、びっしりと大きく記された『忘れたくない』という悲痛な文字に、ノアは息を呑むことになった。
耐え難い苦痛と苦悩に、翻弄され、煩わされ、幾度もの苦肉の選択を迫られた人間が憎悪にたぎった心をそのままぶつけたような、そんな、筆舌し難い、懊悩に満ちた文字だった。
小さい頃から“王子さま”としての教育のために、たくさんの人の文字とノアは触れ合ってきた。
文字にはその人の人柄や感情、気分が命のように吹き込まれる。
ノアは、文字の感情に敏感だった。
文字から相手の特定や人柄を読み取ることはもちろんのこと、感情、気分、相手が書いた時に置かれていた状況さえも読み取ることを可能としていた。
だからこそ、相手の感情に鋭敏なノアは、今、とても苦しい。
催される吐き気に、ツンと鼻の奥が痛くなる、泣きたくなる深い深い悲しみに、今にも引っ張られて引き摺り込まれそうになってしまう。
1ページ、ノアがノートを捲ると、そこにはリュシエンヌの秘密が、葛藤が、自虐が、事細かに、寸分の抜けさえも許されぬと言いたげに、書き殴られていた———。
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