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1章 幸せの花園
45 ノアの誕生日 (2)
しおりを挟む「魔女さまは常にお美しいので、年齢などおきにする必要はないかと思いますが」
「それとこれと話が別なのよぉ~」
「………そんなものなのですね」
「そうよぉ~」
神妙に頷き白銀のチリチリヘアを長く尖った耳にかけた魔女は、紫リップの輝くくちびるを艶やかな舌でちろりと舐める。
「ねぇノアぁ、お前今日誕生日でしょう?」
魔女の言葉にぱちぱちと瞬きを重ねたノアはきょとんと首を傾げる。
「あぁ、そういえばそうでしたね」
———ぱりん、
ガラスコップの割れる華やかな音が聞こえ、ノアは音の原因を探る。
見つけた先には、固まって動けなくなっている唖然とした表情をしているであろう、相変わらずの少し汚れたぶかぶかローブ姿のリュシエンヌ。
「リュシエンヌ?」
ノアの声に、言葉に、リュシエンヌは怒ったような空気を身体に纏った。
「なんで、———なんで言わなかったのよ!!あたしってそんなに信用ならない!?あたしってあなたにとってっ!!」
「いや、そういうのではなく………、」
珍しく焦った空気を纏うノアは、どうにか必死に言葉を探そうとする。
こういう時の対処法を、ノアはあまり知らない。
虎視眈々とノアの失脚を願う悪質な嫌がらせならば完璧に躱せる。
それどころか、相手を逆に失脚させることすらも可能であろう。
ノアは生まれてからずっとそういう教育を受け続けてきたし、ノアも対処できるようにと必死に学んで、そして吸収してきた。
だからこそ、ノアは想いだけがいっぱいに詰まった善意まみれの言葉への対処法を、何も知らない。
対処したことも、対処しようとしたことも、あまり経験がない。
「で?欲しいものは?」
リュシエンヌの剣幕に、捲し立ててくる声に、ノアは驚きすぎて呆然とする。
———僕が、欲しいもの………、
どくどくと心臓が期待の音を鳴らす。
喉がカラカラに乾いて、震えるくちびるから“本当の願い”がこぼれ落ちそうになる。
けれど、ノアにはそんなこと許されない。
ぐっとくちびるを噛み締め、拳を強く握ったノアはにっこり笑った。
「———僕の誕生日なんてそんなたいそうなものではないですよ」
溢れた声の完璧さに我ながら若干弾きながら、ノアは穏やかな声を心がけて魔女とリュシエンヌに微笑みかける。
「魔女さまとリュシエンヌのお誕生日はいつですか?僕のお誕生日の代わりに、いっぱいお祝いさせてください」
*************************
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