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1章 幸せの花園
40 呼び方と喧嘩腰のふたり (2)
しおりを挟む「………ねぇ、永遠の魔女さん、あなたには名前がないの?」
「もう覚えてないわぁ」
「じゃあ、あなたのことはトワさんって呼ぶわね」
「えぇ、いいわよぉ~」
いつに間にかそこそこ仲良くなっている魔女とリュシエンヌに、ちょーっとだけむくれながらも、ノアは表向き平然と佇む。こういう時、本当に王子教育に感謝することになる。両親のように、出来損ないにならないようにと徹底的に施された王子教育は、王子としての生活ができなくなってなお、捨て去ってなお、ノアのことを的確に助けてくれる。
「で?王子殿下のことはなんて呼べばいい?普通にノアールでいいわけ?」
「不敬罪でしょっ引かれたい?」
「じゃあ、ノアールサマ」
「ははっ、冗談に決まってるだろ?ノアでいいよ」
「分かったわ、ノアール」
「………………」
「………………」
「ノア」
「ノアール」
「………………もう好きに呼べばいいよ」
先に折れたノアに満足げな雰囲気を纏ったリュシエンヌは、魔女によって行われていた拘束を外してもらい、立ち上がる。1歩前へと踏み出したリュシエンヌは、ノアに向けて右手を出す。
「じゃあ、よろしく。ノアール」
「………よろしく、リュシエンヌ」
硬く握られた手と手は、ギリギリと音を立てていたが、ノアとリュシエンヌはお互いにそれを指摘することもなく、ノアに至ってはなかなかにいい笑みを浮かべている。目ぶかに被ったローブのせいで全くもって顔が見えないリュシエンヌも、おそらくは似たり寄ったりの表情をしていることだろう。
前途多難な2人を眺めながら、永遠の魔女は心底嬉しそうでいて、楽しそうな笑みをにこにこと浮かべていた———。
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