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1章 幸せの花園
32 墓参り (2)
しおりを挟む魔女はいつもノアの頭を撫でながら、ノアのことを良い子だと言ってくれる。
ぬるま湯につかったような暖かさ、心地よさ、………ノアを蝕む欲望の塊のような生活は、だんだんとノアのことをダメにしている。
さぁっと風が吹き上がり、月花草の花弁が月光の中を舞い上がる。
花びらが淡く発光しながらひらりひらりと舞い落ちる様を見つめるノアは、若草の瞳に空虚な色を灯す。
「———」
くちびるにふわりと音を乗せたノアは、そのままリズムを取り、讃美歌を歌う。
ティアラとフクの天界での幸せを願い、丁寧に歌い上げる。
ノアは全ての授業の中で音楽が最も苦手だったと言っても過言ではないほどに、音楽が好きではなかった。
音はノアを惨めにした。
歌詞はノアを卑屈にさせた。
決して歌が下手なわけでも、楽器が奏でられないわけでもない。
けれど、ノアは、歌が、音楽が嫌いだった。
今日も讃美歌はノアの心を置いていく。
幸せを願えば願うほどに、ノアの苦しみや悲しみ、憎しみが歌に滲み出る。
ノアは純粋無垢で、綺麗な歌声を知っている。
ティアラの歌う讃美歌の美しさを知っている。
ノアは、本物を知っている。
ノアは、偽物しか作り出せない。
月花草は今日も美しく咲き誇っている。
ノアの心を置いてけぼりにして輝き続ける。
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