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1章 幸せの花園
31 夢うつつと現実と (4)
しおりを挟むノアに薬を渡しながらのんびりと言った魔女は、ふわふわといつもと変わらぬ笑みを浮かべている。
「賢いノアならぁ、もう何が起こってるかわかってるよねぇ?」
「………はい」
ノアは小さくくちびるを噛み締める。
無くなった揺り籠、失われた元気な泣き声、そして、———失われた魔女とノア以外生きている1つの気配。
「ならぁ、もう解剖してもいいよねぇ?」
「っ、」
魔女の言葉はいつも残酷でいて合理的だ。
ティアラの時もそうだった。
昨日まで笑って一緒にご飯を食べていた人間を、魔女は躊躇いないく解体していく。
ノアには分からない、分かりたくない世界だった。
「ノアぁ?」
「………なんでもありません。終わったら、ティアラの時同様にあの花畑に弔っても構いませんか?」
「いいよぉ~。それにしてもぉ、ニンゲンってばいっつもぉ変なことばぁっかりするよねぇ。生き物は死んだら魂だけを天空の楽園、お前たちは天界って呼ぶ場所に連れてかれてぇずぅーっとそこで下界の生活を知らず、悠々自適に暮らすだけなのにぃ」
魔女の言葉に、ノアは苦笑した。
「考え方は宗教によってさまざまに異なっていますから」
「そうだねぇ」
ノアの学んできた宗教では、死者は年に1度特別な日に帰ってくると言われている。
そして、帰ってくるためにはお墓が必要だと定められている。
生まれた時から植え付けられてきた価値観というのは、なかなかに変えられない。
ノアにとって死者というものは丁重に扱うものであり、神聖な領域に存在していて触れてもいい領域の存在ではない。
だからこそ、ノアは魔女の行いを受け入れきれない。
「それじゃあ、食器片付けとくねぇ~」
「はい。明日からは僕が家事に復帰しますね」
「よろしくぅ」と言わんばかりに後ろ手に手を振った魔女は、階段を伝い下に降りていく。
その背中を、ノアは静かに見つめていた。
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