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1章 幸せの花園

31 夢うつつと現実と (2)

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 真実を知る多くの貴族は言う。
 王族は『雁字搦めの生き人形の一族だ』と。

 ノアはそんな場所に生まれて、“定め”に、“運命”に従って生きてきた。
 ただただ従順に、何の疑問も持たず、言われたことを言われた以上にできるように努力してきた。

 無能な父王を助けられるように。
 お金に溺れる母妃が自分を見てくれるように。

 でも、結局は誰も振り向いてくれなくて、それどころかどんどんどんどん疎まれていった。

 多分、『両親ににずに優秀な子供』という噂が回り始めた頃からだったと思う。

 けれど、ノアにはこれ以外に道がなかった。
 生き抜くためには、ノアはこの道を選ばざるを得なかった。

 ノアはぐしゃっと微笑み、今にも泣きそうな声で夢の世界だから呟く。

「僕は、やっぱり要らない子なんだね」

 誰にも必要とされない子供。
 誰にも努力を認めてもらえない子供。

 ノアが他の人たちよりもずっとずっと恵まれている生活をさせてもらっていたことは、十分に理解していたし、ノアはそれを享受していた。

 けれど、心の奥底で願うのは、苦労しながらの穏やかな日常。
 家族を愛し、家族に愛される、幸せな日常。

 ポロっと涙がこぼれ落ちて、ノアは苦笑した。

「僕ってやっぱり弱虫だ」

 逃げるしか能がない、愚かな王子。
 たくさんの人間を犠牲にして生き残った、愚かな王子。
 愚かという言葉を何度足しても、ノアの愚かさには到底到達することができない。
 ノアはそのぐらいに、いくつもの“愚か”を積み重ねてきた。

 世界がふわりふわりと揺れ動き、幸せそうな少女と赤子の風景が薄れていく。
 ノアが必死になって手を伸ばすも虚しく、あっという間に光景は消えていった。

 最後の最後、夢から目覚める直前のノアの耳に響くのは、いつも泣き声ばかりを聞いていた、やんちゃで元気な声。

『ありがとぉ、だいしゅきだっちゃよ。おにーちゃん』

 世界が真っ白になる。
 幸せが壊される。

『ばいばい』
「まっ、」

 ノアの手は大きく空振り、空を切る。
 瞬間、世界は優しくバブルのように消え去っていった。

*************************

読んでいただきありがとうございます🐈🐈🐈


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