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1章 幸せの花園

27 フク (2)

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「プクプクくん」

 魔女の発した言葉に、ノアはぱちぱちと瞬きした。

「ぷくぷく丸くて可愛いからぁ、プクプクくん」
「———………、」

 かっこいいお名前どころか、とんでもない名前が飛んできたことに若干、否、ものすごく驚きながらも、ノアは瞬時に思考を巡らせた。
 このままでは、この可愛らしい赤子にとんでもないお名前を一生背負わせることになってしまう。

 ———魔女さまの面子を潰さないかつ、赤子にも害の少ない名前………、

 頭の中にぐるぐると回るいくつかの単語や言葉を精査し、消去し、制作する。

「ふ、………フクはいかがですか?プクプクは言いづらいですし………………、」
「フク。いいお名前だねぇ。じゃあこの子はぁ、今日からフクねぇ」

 どうにか魔女の暴走が止められたと安堵のため息をこぼしたノアは、ノアの気苦労も知らずご機嫌にお昼寝を始めてしまった赤子フクに微笑みを向けた。

 ———フク、君の未来が『幸“福”』に満ち溢れることを願っているよ。

 魔女の森、通称“死の森”に捨てられてしまったという事実は覆しようも、隠しようもないし、フクの一生のお店になってしまうだろう。けれど、ここで生き延びるしか、フクには道なんて残っていない。残されていない。

 だからこそ、ノアは願う。

 この波乱に満ちた混沌渦巻く世界に生まれ落ち、生まれてすぐに親に見捨てられた赤子が幸福に暮らせる世界を。未来を。

 ———僕が作ってみせる。

 たいそうな夢だと、叶いっこない夢だとちゃんとわかっている。
 けれど、夢は大きく持つべきもの。
 目標は高く掲げるもの。

 ノアの辞書に『不可能』という言葉は存在していない———。

*************************

読んでいただきありがとうございます🐈🐈🐈

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