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 唖然とした表情と共に、その場にどうしようもないほどに冷たい静寂が訪れる。
 微笑みを崩さず、のんびりとした姿勢で居続けるオリヴィアと、絶対零度を超えた殺意の籠った表情をしているアレクに、周囲は恐れ慄いた。

「お、オリヴィア嬢、お、お前がなぜアレクの隣にいるんだっ!もしや!我が息子をたぶら、」

 ———しゃん、

「ひぃっ!!」
「俺がたぶらかされている?バカも大概にしろ。俺が女に現を抜かすようなアホだとあんたは言いたいのか?」
「あ、う、」
「確かに、あんたから見れば俺はオリヴィアへの愛に狂った息子に見えるだろうな。だが、ならば、何故俺は1週間前に彼女との婚約を破棄したんだ?」
「え、そ、それは………、彼女のエロさにやられてと、———うぎゃっ!!」

 国王が発した言葉が、アレクの逆鱗に触れたのだと気がつくまでに、長い時間を要した。
 鈍く輝く緋色を纏った剣に失禁する人間が現れ始めたところで、オリヴィアはアレクの両手に自らのそれを重ねた。

「………アレク、確かに今の発言はいかがなものかと思いますが、あなたがコレ如きで手を汚す必要はありませんわ」
「………………」
「あなたは、あなただけは、この男のように成り下がらないで」

 思い出すのは、5年前のとある日。
 カラッと晴れた春の麗らかな日。

 まだ、———兄が生きていた輝かしい日。

 英雄とまで呼ばれた輝かしい青年リオネルを兄に持っていたオリヴィアは、地面にひれ伏すようにして押さえつけられている国王に、相変わらず春の陽気を思わせる微笑みを向ける。けれど、その若葉色の瞳には、何も色が宿っていない。

 国王の証たる勲章を、アレクが国王の胸から外す。
 そして、その勲章はオリヴィアの胸へと取り付けられる。

「ルクイエム辺境伯家は、今この瞬間を以て、謀叛を達成致しましたわ」

 あまりにも淡々とした出来事だった。
 2000年以上も続く歴史高き王朝が、たった数分にして崩れ落ちた瞬間であった。

 オリヴィアは清々しい微笑みを浮かべて、国王、否、元国王に向けてこてんと首を傾げた。

「婚約破棄が始まりの鐘でしたのよ?」

*************************

読んでいただきありがとうございます🐈🐈🐈

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