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7日目、あゆみの死
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▫︎◇▫︎
あいつが、あゆみが俺の腕の中で血を吐いて倒れてから12時間。
あいつの寿命が尽きる日の朝4時。
俺はあゆみの病室で、あゆみのベッドの隣に腰掛けて彼女の手を握っている。
ーーーピーピーピー、
鳴り響く警告音は鳴り止むところを知らず、ずっとあゆみの命が風前の灯火であることを無慈悲に伝えてくる。
膝の痛みをも忘れて、あゆみを抱き抱えたまま彼女の主治医の元に駆け込んだ時には、もう既に、全てが後手後手に回って手遅れだった。
主治医は首を横に振るばかりで、延命治療をすることをも渋った。けれど、俺の必死すぎる説得の甲斐もあってか、最終的には折れて延命治療をしてくれた。
でも、もうそれも限界を迎えている。
彼女が受けていた治療は、元々から延命治療だったらしい。現代医療の最先端を追いかけてなお治療法が見つかっていない無知の病であり、不治の病。
「お前はそんなのと、………ずっと1人で闘ってきたのか?」
あゆみからの返事なんてものはない。ただ苦しそうな呼吸音と機械から出される警告音のみが俺の耳をくすぐる。
「………なあ、返事をくれよ」
ぎゅっと彼女の手を握る手を強めると、ぴくっと指先が反応した。
「!?」
「………そう、ま………くん?」
「あゆみ!?」
もう目覚めないと断言されていただけに、俺はみっともない顔をして彼女のことを見つめてしまっているだろう。
「………ねぇ、いき、る?ちゃんと、いきて、くれ、る………?」
「っ、」
俺に生きろと言う彼女は残酷でいて、美しい。
耳元で輝くイヤリングは、彼女の意志の強さを代弁しているかのようだった。
「………わた、し、ちゃんと、………せ、っとく、でき、てた?………き、みとの、ちかい、はた、せた?」
不安げに揺れ動く琥珀色の瞳を安心させたくて、俺は咄嗟に嘘をつく。
「あぁ。果たせたよ、あゆみ」
俺が微笑むだけで、あゆみは幸せそうにふにゃりと表情を緩めた。本当に、幸せそうで、可愛くて、………そして何よりも気高い。
本当は、生きていく自信なんてない。
あゆみがいない世界に、俺が生きていく意味なんてない。理由なんてない。たった1週間でよくもまあここまで絆されたものだと逆に感心してしまいたくなるレベルだ。
でも、彼女は俺が生きたいと願うことを望んでいる。
だからこそ、俺は彼女を騙す。
あゆみはほうっと疲れ切ったように息を吐き出したあと、瞳を細めて笑った。やっぱり、あゆみの笑顔が好きだ。
「よかっ、た………。ちゃん、と、いき、てね?………そう、まく、ん、が、またかつや、く、………でき、る、ことを、ねが、」
言葉が不自然に途切れて、俺の手の間から彼女の手が滑り落ちる。
「あゆ、み………?」
ーーーピー、
無慈悲な警告音は、一音の終焉を告げる音だけを伸ばし続ける。
呆然とすることしかできない。
あまりにも呆気なく、儚く、彼女は虹の先の世界へと旅立って行った。
ーーーこの日、柊あゆみはこの世界から消えた。
*************************
読んでいただきありがとうございます🐈🐈⬛🐈
あいつが、あゆみが俺の腕の中で血を吐いて倒れてから12時間。
あいつの寿命が尽きる日の朝4時。
俺はあゆみの病室で、あゆみのベッドの隣に腰掛けて彼女の手を握っている。
ーーーピーピーピー、
鳴り響く警告音は鳴り止むところを知らず、ずっとあゆみの命が風前の灯火であることを無慈悲に伝えてくる。
膝の痛みをも忘れて、あゆみを抱き抱えたまま彼女の主治医の元に駆け込んだ時には、もう既に、全てが後手後手に回って手遅れだった。
主治医は首を横に振るばかりで、延命治療をすることをも渋った。けれど、俺の必死すぎる説得の甲斐もあってか、最終的には折れて延命治療をしてくれた。
でも、もうそれも限界を迎えている。
彼女が受けていた治療は、元々から延命治療だったらしい。現代医療の最先端を追いかけてなお治療法が見つかっていない無知の病であり、不治の病。
「お前はそんなのと、………ずっと1人で闘ってきたのか?」
あゆみからの返事なんてものはない。ただ苦しそうな呼吸音と機械から出される警告音のみが俺の耳をくすぐる。
「………なあ、返事をくれよ」
ぎゅっと彼女の手を握る手を強めると、ぴくっと指先が反応した。
「!?」
「………そう、ま………くん?」
「あゆみ!?」
もう目覚めないと断言されていただけに、俺はみっともない顔をして彼女のことを見つめてしまっているだろう。
「………ねぇ、いき、る?ちゃんと、いきて、くれ、る………?」
「っ、」
俺に生きろと言う彼女は残酷でいて、美しい。
耳元で輝くイヤリングは、彼女の意志の強さを代弁しているかのようだった。
「………わた、し、ちゃんと、………せ、っとく、でき、てた?………き、みとの、ちかい、はた、せた?」
不安げに揺れ動く琥珀色の瞳を安心させたくて、俺は咄嗟に嘘をつく。
「あぁ。果たせたよ、あゆみ」
俺が微笑むだけで、あゆみは幸せそうにふにゃりと表情を緩めた。本当に、幸せそうで、可愛くて、………そして何よりも気高い。
本当は、生きていく自信なんてない。
あゆみがいない世界に、俺が生きていく意味なんてない。理由なんてない。たった1週間でよくもまあここまで絆されたものだと逆に感心してしまいたくなるレベルだ。
でも、彼女は俺が生きたいと願うことを望んでいる。
だからこそ、俺は彼女を騙す。
あゆみはほうっと疲れ切ったように息を吐き出したあと、瞳を細めて笑った。やっぱり、あゆみの笑顔が好きだ。
「よかっ、た………。ちゃん、と、いき、てね?………そう、まく、ん、が、またかつや、く、………でき、る、ことを、ねが、」
言葉が不自然に途切れて、俺の手の間から彼女の手が滑り落ちる。
「あゆ、み………?」
ーーーピー、
無慈悲な警告音は、一音の終焉を告げる音だけを伸ばし続ける。
呆然とすることしかできない。
あまりにも呆気なく、儚く、彼女は虹の先の世界へと旅立って行った。
ーーーこの日、柊あゆみはこの世界から消えた。
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読んでいただきありがとうございます🐈🐈⬛🐈
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