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 実際に舞踏会に参加した日、あいつはいつも通りものすごく不機嫌だった。それなのに穏やかに微笑んで、人々に愛されるあいつは、純粋に尊敬に値するように感じた。

 気難しいと有名な御人も、あいつが褒めるたび、些細なことでも聞き逃さんと話を聞くたび、表情が穏やかになり、あいつに気を許していた。
 素晴らしい才能だ。

 貴族が嫌う『働く』という行為を愛し、どれだけ否定されようともまっすぐ背筋を伸ばして堂々と振る舞い、時に蹴散らすあいつは、逃げるばかりの俺よりもよほど輝いて見えた。

(敵わない)

 社交中も、踊っている最中も、何度も何度もそう思い、その度に、俺は申し訳なさでいっぱいになった。

 俺と結婚しなければ、あいつはもっと幸せになれたんじゃないか。
 もっと良い相手に巡り会えたんじゃないかと思った。

 同時に、心の中にドス黒い闇が生まれた。

 必死になって隠して、隠して隠して、あいつに喧嘩をふっかけて、なぜかそのシトリンの瞳をもっと向けてほしくて、俺はその度に自分に悪態をついた。

(何してんだよ)

 疲れ切った姿で舞踏会から帰宅し、自室へと帰るあいつの背中に溜め息を吐きながら、俺は踵を返した。

 1週間後、あいつが誘拐され、姿を消すとは思わずに………………。

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読んでいただきありがとうございます🐈🐈🐈

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