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「………御三家のいざこざのせいで、隣国との一般の国交が閉ざされてるんですよ。おかげさまでオパールの搬入ができないんです」
「あぁ、そういえばお前、宝石商だったな」
「文句も何も一切聞きませんよ。わたしは宝石商であったという事実を誇りに思っているんですから」

 宝石商として働いた4年間はわたしにとって何事にも変えられない大切な大切な宝物。
 辛いことも苦しいこともたくさんあった。
 搬入で外国に行くことが多くて、常識や文化の違いに戸惑うことも、殺されかけることもあった。
 でも、それでも、わたしは宝石商としての仕事が大好きだった。愛していた。

 契約結婚の夫如きにわたしの愛を否定される謂れはない。

「———何故そういう思考になる?俺は前線に出てバリバリ働くお前は、純粋にカッコいいと思ったぞ」
「へっ?」

 あまりのことに思考が追いつかない。

 というか、こいつ天然ジゴロか?
 ここ1ヶ月ダンスレッスン中にも思ったけれど、なんだか所々に漏れ出す言葉が妙にキザくさい。

「俺はそんな働く女だったから、お前に契約婚を持ち込んだんだ。働くという行為に忌避感のない女は素敵だと思う。そもそも、働くという行為に男女という壁は必要ない。それに、仕事内容によっては女性の方が優れていることも多々あるんだ。『女が働くな』なんていう考え方は古い」

 言い切った旦那さまの横顔はなんだか清々しそうで、その横顔にわたしは見惚れる。

「この世界の半分は女でできているんだ。女だからなんていう差別は、世界の停滞につながる」
「っ、」

 今までのどんな言葉よりも深く、鋭く、わたしの胸を貫いた。
 痛くて苦しいのに、どこまでも嬉しい。

「そういうのを言える男性は増えたら、この世界はもっと輝かしいものになるでしょうね」

 あまりの夢物語にわたしは苦笑した。

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読んでいただきありがとうございます🐈🐈🐈

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