上 下
5 / 9

罵倒すらもご褒美

しおりを挟む
 シャーリーが彼女たちを涙に濡れた瞳で数十秒見つめた次の瞬間には、シャーリーの瞳は、否、頭は、グレンによって抱き抱えられてしまった。

「シャーリーの泣き顔を見るな。減る」

 グレンの怒気を孕んだ声は、すうっと空気を揺るがす。
 けれど、彼の殺気に慣れているオリヴァーは一歩も引くことなくひょいっと肩を竦めて苦笑するだけだった。

「………愛おしい人を泣かせて何が楽しいんだか」
「泣き顔は世界で1番可愛い顔だぞ?」
「どこのクソガキ発言だよ」
「どこだろうな」

 シャーリーはぐいっと彼の腕をつまむが、彼は涼しい微笑みを浮かべたまま、一切動じなかった。

「はうっ、」

 それどころか、くちびるを柔らかく喰まれるというありえない仕返しをされた。

「………もぅ泣きたい」
「え?今まで泣いてなかったの?」

 もう1度シャーリーは彼の腕をつねり、胸に頭突きしてぐりぐりぐりーっと頭を埋めた。

「おばか」
「うん」
「どあほ」
「そっかー、」
「あんぽんたん」
「可愛いなぁ」
「すかぽんたん」
「うん、最高」

 精一杯の罵倒にデレデレとされたシャーリーは「うぅーっ」と呻いて、なおのこと涙を流した。

「グレンがちっとも懲りてくれないぃー!!」

 「びゃーっ」と彼の腕に抱かれたシャーリーは、彼に頭と背中を優しく撫でてもらいながら、いっぱい泣きじゃくっている。

「なんか、こいつら何がしたいんだろうな………、」
「ごめんなさい、オリヴァー。わたくし、頭が良くないから答えに行き着けない」
「いや、マリンが悪いわけじゃない。というか、アクアマリンは賢いよ」
「お姉さまはいつもわたくしの上を行っていたわ」
「アレはアレ。君は君だから」

 こちらはこちらで、オリヴァーとその連れ、スカーレットの双子の妹であり、ロベロン王国第2王女アクアマリン・ロベロンの間に甘い空気が流れそうになった瞬間、グレンは勢いよく両手を叩いた。

「さぁ、お仕事のお話に入ろうか」
「………お前、本当に性格悪いな」
「貴重な褒め言葉として受け取っておこう、オリヴァー殿」
「キモ………、」

*************************

読んでいただきありがとうございます🐈🐈🐈

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

無粋な訪問者は良縁を運ぶ

ひづき
恋愛
婚約破棄ですか? ───ふふ、嬉しい。 公爵令嬢リアーナは、大好きなストロベリーティーを飲みながら、侍従との会話を楽しむ。

五人姉妹の上から四番目でいつも空気だった私は少々出遅れていましたが……? ~ハッピーエンドへ走りたい~

四季
恋愛
五人姉妹の上から四番目でいつも空気だった私は少々出遅れていましたが……?

婚約破棄された強かな(物理)令嬢が元婚約者をビンタしにいく話

眠れぬ森のゴリ子
恋愛
題名の通り。 *この話の構成成分は深夜テンションと勢いです。くれぐれもご了承下さい。

薬屋の一人娘、理不尽に婚約破棄されるも……

四季
恋愛
薬屋の一人娘エアリー・エメラルドは新興領地持ちの家の息子であるカイエル・トパーヅと婚約した。 しかし今、カイエルの心は、エアリーには向いておらず……。

婚約破棄をするとその後の愛人計画は?

tartan321
恋愛
タイトル通りです。明日完結します。

【完結・7話】召喚命令があったので、ちょっと出て失踪しました。妹に命令される人生は終わり。

BBやっこ
恋愛
タブロッセ伯爵家でユイスティーナは、奥様とお嬢様の言いなり。その通り。姉でありながら母は使用人の仕事をしていたために、「言うことを聞くように」と幼い私に約束させました。 しかしそれは、伯爵家が傾く前のこと。格式も高く矜持もあった家が、機能しなくなっていく様をみていた古参組の使用人は嘆いています。そんな使用人達に教育された私は、別の屋敷で過ごし働いていましたが15歳になりました。そろそろ伯爵家を出ますね。 その矢先に、残念な妹が伯爵様の指示で訪れました。どうしたのでしょうねえ。

学園にいる間に一人も彼氏ができなかったことを散々バカにされましたが、今ではこの国の王子と溺愛結婚しました。

朱之ユク
恋愛
ネイビー王立学園に入学して三年間の青春を勉強に捧げたスカーレットは学園にいる間に一人も彼氏ができなかった。  そして、そのことを異様にバカにしている相手と同窓会で再開してしまったスカーレットはまたもやさんざん彼氏ができなかったことをいじられてしまう。  だけど、他の生徒は知らないのだ。  スカーレットが次期国王のネイビー皇太子からの寵愛を受けており、とんでもなく溺愛されているという事実に。  真実に気づいて今更謝ってきてももう遅い。スカーレットは美しい王子様と一緒に幸せな人生を送ります。

そんな事も分からないから婚約破棄になるんです。仕方無いですよね?

ノ木瀬 優
恋愛
事あるごとに人前で私を追及するリチャード殿下。 「私は何もしておりません! 信じてください!」 婚約者を信じられなかった者の末路は……

処理中です...