アニマル異世界

めろんブレッド

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1.皆動物になりますように

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 ここはとある異世界。
 魔法もあれば、魔物もいるファンタジーな場所。
 そんな世界で起こった、史上最悪の事件である。

「王様、勇者召喚の準備が整いました」

 魔術師ルミエールとルクス王国の姫、ララが緊張した顔で魔方陣の前に立つ。

「うむ。これより異界から勇者を召喚する儀式を行う」

 王城の謁見室で沢山の騎士や大臣に見守られながら、予定通りに事は進んでいた。

 そう、ここまでは。

「女神よ。清き心に力を与え、今ここに降臨―」

「…!?」

 ララ姫が呪文を唱えてる途中で、ルミエールの体が震える。
 何か恐ろしい気配を感じた気がしたのだ。
 
「王様! 今すぐ中断してくださいっ」

 しかし、間に合わなかった。
 発動した魔方陣に光が宿る。
 ルミエールは咄嗟に、近くにいたララ姫だけでも守ろうとマジックバリアを張る。
 その判断は正しかった。

「な、何だこの光は!?」

 その場にいた皆が眼を瞑る。
 視界が真っ白になるくらいの光は、城だけではなく城下町、隣町、そして世界中に広がった。
 やがって光が治まった頃に見えてきたものは…。
 

「勇者…無事召喚できたのか…?」

 王様は魔方陣の真ん中に立つ不思議な棒を持った少年を見て安堵したが、ララ姫とルミエールの異変に固まった。

「ララ、ルミエール。そ、そのシッポとミミは…」

 獣人のような尻尾と耳を生やした姿に、王様は動揺していた。
 辺りを見回せば、騎士や大臣はどこにも居ない。
 変わりに転がっているのは犬や猫、ネズミなど様々な動物。

「王様、非常に申し上げにくいのですが」
「なんだ?」

 普段は礼儀正しいルミエールが、王様を視界に入れないように横目で話す。
 
「王様、犬に…になっています。皆の者も、動物に…」

 王様は自分の体を確認した。
 周りの動物たちも同じ仕草をする。
 そして、次の瞬間。


「「「ぎゃあああああ!!」」」
「「「なんじゃこりゃぁぁあ!?」」」

 世界中に悲鳴と戸惑いが溢れかえった。
 その様子に、勇者シオンは…笑顔で言った。

「皆、可愛い動物だね!」

----そのちょっと前の天界-----

「あれ? ここは何所なの?」

 虫捕りアミとカゴを持った今にもセミを捕獲しそうな少年、紫苑(シオン)が白い部屋を見回す。

「おぉ、清き正しい心を持ちし者よ。よくぞいらっしゃいました」
「何所か知らないけど、いらっしゃったよ」

 急に現れた女神にも動じず、シオンは手をあげてキリッと答える。
 その幼い少年に、女神は微笑んでこれからの事を話す。

「貴方は異世界の勇者に選ばれました。突然で申し訳ないのですが、世界の悪しき者を倒して欲しいのです」
「はーい。分かったよ」

 無邪気に返事をする少年シオンに女神は少しだけ不安を覚えた。
 あどけないこの子で、本当に大丈夫だろうか…。
 選ばれた者と言えど、普通は親に守られて暮らす歳の子供に、危険な旅をさせるのは心苦しく感じる。
 しかし、呼び出した以上は別の者に頼めない。
 少し悩んだ後、女神は一つの考えを伝える。

「普段なら、聖なる力を授けるだけなのですが…それだけでは不安でしょう。一つだけ、貴方の願い事を叶えます」
「願い事? 何でもいいの?」
「はい。世界を助けてくれたお礼に、どんな願い事でも三つ叶える予定でした。なので、先払いに一つだけです」

 少年シオンは、とても嬉しそうな笑顔で女神様を見上げた。

「やった! ボク、ずっと叶えたい願い事があったんだ」
「ふふ、男の子らしいですね」

 女神はてっきり、シオンがテレビのヒーローに憧れ、カッコいい魔法や力が欲しいのだと勘違いしていた。
 そう、飛んでもない勘違いを…。

「あぁ、時間が無いようです。召喚の儀式が始まっています」

 シオンは白い光に包まれ、透明になっていく。
 女神さまはシオンに力を授けるべく手をかざし、願いを頭の中で念じるように言う。

「では、勇者よ。お気をつけて…必ずや悪しき者を倒すと信じています」
「頑張るよ、任せといて!」

 最後まで笑顔でシオンは答える。
 その様子に女神は安堵し、微笑んで送り出した。

「え?」

 シオンがいなくなった瞬間、女神にもまばゆい光が襲う。
 気づいた時には――

「にゃんでえぇ!?」

 猫になっていた。

「勇者ぁ! 信じて、信じていたのに…!」

 信用は、数十秒も経たずに過去形になっていた。
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