ほたる祭りと2人の怪奇

飴之ゆう

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終章:極彩色の旅人

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小さな祠から、男にも女にも、大人にも子供にも、人間にも人外にも見えるモノが鏡を取り出した。
井戸の縁に座り、その鏡を覗き込む。そして鏡面を撫でた。小さく口元が動いて何かを呟いている。

「儂は人の心をまったく知らなかったのだな、あの二人に言われなければ、永遠にあのままだった……。最低のお人好しだな儂は。どうか来世で幸せに……」

この身の罪は、幾許いくばくならん──。 

自身に呆れ、溜息を吐く。

「この場所を永遠に閉じる日が来るとはな。時代に見合わないから仕方がないか」

オレンジ色に染まる空に薄らと亀裂が走っている。境界線を可視化したものだ。
一瞬瞳が赤く輝くと亀裂は閉じ始めた。見届けているモノはいないだろう。きっと反対されるだろうが、もう妖怪の時代ではない。

「聞くな。寄るな。理解るな。探るな。……見るな。来るな。知るな。入るな。囚われるな」

目を閉じ祈るように呟く。

「非常識のその裏側を通すことはもう出来ない」

──我ら妖怪が生きるその生涯に、添える彩などありもせず。

どうしようもなく焦がれた思いを飲み込んで、境界線を閉じる。ある意味妖怪らしい生き方だった。
 
「最後に会えた人間があの者達で良かった。儂の生命のなんと長き事か」

自分が創り守ってきた箱庭を永遠に隠す。たとえ逢魔時となろうと、決して開かぬ様に。

「お前も強情よな……せめて地上に出れば良かったものを」

井戸の底を覗き言う。しかし言葉は返ってこない。肩を竦め立ち上がると、鏡を抱え神社に向かって歩き出した。
 


日が落ちて空が昏くなっていく。永遠の夕暮れは終わった。
黄昏に溶かした不動の時間は終わり、進み出す。

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