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2章:幽明ヶ原
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雨女は螢と信乃に、再度気をつけるように言うとそのまま公園から立ち去ってしまった。
その背中を呆然と見送った二人は、戸惑いながらも元の世界に戻るためまた行動を開始した。
危険なのは最初にもう分かったが、それでもこの世界から脱出したい。まだ向こうの世界でやりたいことは沢山あるのだ。しかし、もう一度あの駅に行くのは無意味だろう。
「とにかく、ここから出るにも出る方法を知っている人を見つけないと……」
信乃が顎に手を当て言った。それに螢は頷き、ひとまず公園を出ようと言い、入ってきた方とは逆の出入り口に向かう。駅からここまで影しかいなかった。雨女のように話せる人が他にもいないかと、さらに街の奥へと探索を再開した。
だが、やはり見つかるのは人型の影ばかりで人間と呼べる者は見当たらない。
「どうしよう、雨女さん以外誰もいないのかな……」
「いや、アイツの言葉を信じるなら、妖怪は他にもいるはずだ。この世界に迷い込んだ人間が他にもいたとも言っていたな。さっきみたいに、ひょっこり見つかるかもしれない。それにこの世界があるということは、創ったヤツもいる。そいつにも会うことが出来れば……」
「ここから出られるかも」
信乃は大きく頷いた。螢も頷き返す。出会った相手が話を聞いて助けてくれるかは分からない。しかしこのままくすぶっていてもどうにかなる訳ではない。
話が決まった二人は、もう一度気合を入れ直し、この世界の話せる住人を探すことにした。
住宅街をしばらく探索したが、雨女以外のモノはいまだ見つけられていない。そう簡単にいくとは思っていなかったが、焦燥感は増していく。
歩き続けていると、住宅街をぬけたのか商店街らしき場所についた。よくある商店街にも見えるが、看板も何もかも文字化けして読めず、物言わぬ人型の影ばかりなのでとても不気味だった。
「なかなかいないね……」
少し疲れたような声で螢が呟く。信乃はきょろきょろしながらそうだな、と相槌をうった。
時折足を止め、向こうの世界と変わりあるのか確かめるように眺めたり路地裏を覗く。売っている物は向こうと特に変わりは無く、食べ物も多分同じだった。
「これって、見た目はコロッケだけど……食べられるのか?」
精肉店とおぼしき場所にあるコロッケを見た信乃は言った。螢もそれは思ったが、こういう物は口にしない方がいいと思い信乃を注意した。
「食べられたとしても食べない方がいいんじゃない?必ず同じってわけじゃないだろうし」
それに対して信乃は、それはそうだと頷きコロッケらしきものから視線をはずす。興味はあったが、信乃も別に食べたいわけではなかったので返事もあっさりしたものだった。
時間が進まないこの世界に一時間くらいいるが、お腹が空くことはなかった。
しかし、いずれ空腹になるかもしれないと考えると、何か食べても問題ない物を見つけた方がいいのか、でも訳の分からない世界のものに安全なものなどあるのか……、とぐるぐる頭の中で考えていた螢をよそに、信乃は青果店に行き、袋詰めされたピーマンを手に取り観察していた。
「うーん……食べれそうではあるが──」
「食ベタラ帰レナイヨ?」
考え事をしながら信乃を見ていた螢の背後から突如声が聞こえた。
振り返ったが声の主は見当たらない。信乃はピーマンを置き螢に駆け寄った。そんな二人を笑う声がまた聞こえた。子供の声のようだ。
信乃は後ろに何かいると直感で振り向いた。すると何か赤色の布の様な物が路地裏に入って行くのが目の端にうつる。
「見つけた! 行くぞ螢!」
螢は駆け出した信乃の後を追い路地裏へ走った。先程覗いたはずの路地裏は少し広くなっている気がした。先を行く赤色は、まるでこちらをからかうようにひらひらと楽し気に舞っていた。
その背中を呆然と見送った二人は、戸惑いながらも元の世界に戻るためまた行動を開始した。
危険なのは最初にもう分かったが、それでもこの世界から脱出したい。まだ向こうの世界でやりたいことは沢山あるのだ。しかし、もう一度あの駅に行くのは無意味だろう。
「とにかく、ここから出るにも出る方法を知っている人を見つけないと……」
信乃が顎に手を当て言った。それに螢は頷き、ひとまず公園を出ようと言い、入ってきた方とは逆の出入り口に向かう。駅からここまで影しかいなかった。雨女のように話せる人が他にもいないかと、さらに街の奥へと探索を再開した。
だが、やはり見つかるのは人型の影ばかりで人間と呼べる者は見当たらない。
「どうしよう、雨女さん以外誰もいないのかな……」
「いや、アイツの言葉を信じるなら、妖怪は他にもいるはずだ。この世界に迷い込んだ人間が他にもいたとも言っていたな。さっきみたいに、ひょっこり見つかるかもしれない。それにこの世界があるということは、創ったヤツもいる。そいつにも会うことが出来れば……」
「ここから出られるかも」
信乃は大きく頷いた。螢も頷き返す。出会った相手が話を聞いて助けてくれるかは分からない。しかしこのままくすぶっていてもどうにかなる訳ではない。
話が決まった二人は、もう一度気合を入れ直し、この世界の話せる住人を探すことにした。
住宅街をしばらく探索したが、雨女以外のモノはいまだ見つけられていない。そう簡単にいくとは思っていなかったが、焦燥感は増していく。
歩き続けていると、住宅街をぬけたのか商店街らしき場所についた。よくある商店街にも見えるが、看板も何もかも文字化けして読めず、物言わぬ人型の影ばかりなのでとても不気味だった。
「なかなかいないね……」
少し疲れたような声で螢が呟く。信乃はきょろきょろしながらそうだな、と相槌をうった。
時折足を止め、向こうの世界と変わりあるのか確かめるように眺めたり路地裏を覗く。売っている物は向こうと特に変わりは無く、食べ物も多分同じだった。
「これって、見た目はコロッケだけど……食べられるのか?」
精肉店とおぼしき場所にあるコロッケを見た信乃は言った。螢もそれは思ったが、こういう物は口にしない方がいいと思い信乃を注意した。
「食べられたとしても食べない方がいいんじゃない?必ず同じってわけじゃないだろうし」
それに対して信乃は、それはそうだと頷きコロッケらしきものから視線をはずす。興味はあったが、信乃も別に食べたいわけではなかったので返事もあっさりしたものだった。
時間が進まないこの世界に一時間くらいいるが、お腹が空くことはなかった。
しかし、いずれ空腹になるかもしれないと考えると、何か食べても問題ない物を見つけた方がいいのか、でも訳の分からない世界のものに安全なものなどあるのか……、とぐるぐる頭の中で考えていた螢をよそに、信乃は青果店に行き、袋詰めされたピーマンを手に取り観察していた。
「うーん……食べれそうではあるが──」
「食ベタラ帰レナイヨ?」
考え事をしながら信乃を見ていた螢の背後から突如声が聞こえた。
振り返ったが声の主は見当たらない。信乃はピーマンを置き螢に駆け寄った。そんな二人を笑う声がまた聞こえた。子供の声のようだ。
信乃は後ろに何かいると直感で振り向いた。すると何か赤色の布の様な物が路地裏に入って行くのが目の端にうつる。
「見つけた! 行くぞ螢!」
螢は駆け出した信乃の後を追い路地裏へ走った。先程覗いたはずの路地裏は少し広くなっている気がした。先を行く赤色は、まるでこちらをからかうようにひらひらと楽し気に舞っていた。
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