2 / 28
1章:逢魔時
1
しおりを挟む
「ふーん、変な夢だな」
電車で今日あった夢の話を、仲のいい幼馴染みの雨瀬信乃に話した。夢というのは存外覚えていられるらしい。
信乃にその話をしてみると思ったより反応が薄く、螢はいろんな意味で呆れて脱力してしまった。
「いや、なんで呆れてんだよ……なら、どういう反応すればいいのさ」
信乃はペットボトルのお茶を飲みながら不機嫌そうに言う。それを見た螢は肩をすくめた。
「あはは、ごめんごめん。……いや~なんか対策した方がいいのかなーって」
思ってさ、と螢は努めて明るく言う。そんな螢を信乃は内心、心配していた。螢はずっと、いいのか悪いのか区別もつかないわけ分からない夢を気にしていたらしく、学校でもぼーっとしている事が多かった。
「それ聞いてると、なんか悪夢とはまた違うとは思う……。はぁ、せっかく休みなんだし、暗いのはナシにしようぜ」
信乃は早々に話を切り上げた。
休日である今日、螢と信乃は辰野で行われるほたる祭りに向かっている。たまたま二人の都合が合い、一度映像では無く実物のホタルを見てみよう、という事になり参加を決めたのだ。
螢は幼い頃、辰野に住んでいたことがあったが、何せ幼い頃の事なので『そこに住んでいた』程度しか覚えていない。
「そうだね」
「……まだ着かないし、俺はちょっと寝る」
そう言い信乃はペットボトルを鞄にしまう。彼の言葉に、螢はスマホで時刻表を確認した。確かに後三十分以上は時間がある。
同じ長野県内でも中々遠いな、としみじみ思う。信乃は生まれも育ちも、螢は小学校低学年のあたりから、長野市に住み、今は市内にある同じ高校に通っている。
「分かった、着きそうだったらそのままにして先に行くね」
「おい! マジで止めろ、洒落にならん!」
冗談を言った螢に慌ててアラームをセットし始めた信乃が面白く、くすくす笑う。
「ごめんて、大丈夫、ちゃんと起こすから。おやすみ~」
じとりと螢を睨んだ信乃は、「起こすよ」と笑い混じりに繰り返した螢を信じ、アラームのセットを止め今度こそ素直に眠った。
そんな信乃がまた面白く気付かれないよう静かに笑みを深めた。
すぅすぅと気持ちよさそうな信乃の寝息を聞きながら、時間つぶしに持ってきた小説を鞄から取り出す。
しかし先程信乃が言った『悪夢とはまた違う』という事が気にかかりなかなか集中できない。気を取りなおすように小さく頭をふると、少しでも紛らわそうと文字を目で追った。
夢で何故あの『人』に対して懐かしく感じたのか。それは今はまだ分からない。
電車で今日あった夢の話を、仲のいい幼馴染みの雨瀬信乃に話した。夢というのは存外覚えていられるらしい。
信乃にその話をしてみると思ったより反応が薄く、螢はいろんな意味で呆れて脱力してしまった。
「いや、なんで呆れてんだよ……なら、どういう反応すればいいのさ」
信乃はペットボトルのお茶を飲みながら不機嫌そうに言う。それを見た螢は肩をすくめた。
「あはは、ごめんごめん。……いや~なんか対策した方がいいのかなーって」
思ってさ、と螢は努めて明るく言う。そんな螢を信乃は内心、心配していた。螢はずっと、いいのか悪いのか区別もつかないわけ分からない夢を気にしていたらしく、学校でもぼーっとしている事が多かった。
「それ聞いてると、なんか悪夢とはまた違うとは思う……。はぁ、せっかく休みなんだし、暗いのはナシにしようぜ」
信乃は早々に話を切り上げた。
休日である今日、螢と信乃は辰野で行われるほたる祭りに向かっている。たまたま二人の都合が合い、一度映像では無く実物のホタルを見てみよう、という事になり参加を決めたのだ。
螢は幼い頃、辰野に住んでいたことがあったが、何せ幼い頃の事なので『そこに住んでいた』程度しか覚えていない。
「そうだね」
「……まだ着かないし、俺はちょっと寝る」
そう言い信乃はペットボトルを鞄にしまう。彼の言葉に、螢はスマホで時刻表を確認した。確かに後三十分以上は時間がある。
同じ長野県内でも中々遠いな、としみじみ思う。信乃は生まれも育ちも、螢は小学校低学年のあたりから、長野市に住み、今は市内にある同じ高校に通っている。
「分かった、着きそうだったらそのままにして先に行くね」
「おい! マジで止めろ、洒落にならん!」
冗談を言った螢に慌ててアラームをセットし始めた信乃が面白く、くすくす笑う。
「ごめんて、大丈夫、ちゃんと起こすから。おやすみ~」
じとりと螢を睨んだ信乃は、「起こすよ」と笑い混じりに繰り返した螢を信じ、アラームのセットを止め今度こそ素直に眠った。
そんな信乃がまた面白く気付かれないよう静かに笑みを深めた。
すぅすぅと気持ちよさそうな信乃の寝息を聞きながら、時間つぶしに持ってきた小説を鞄から取り出す。
しかし先程信乃が言った『悪夢とはまた違う』という事が気にかかりなかなか集中できない。気を取りなおすように小さく頭をふると、少しでも紛らわそうと文字を目で追った。
夢で何故あの『人』に対して懐かしく感じたのか。それは今はまだ分からない。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
夫を愛することはやめました。
杉本凪咲
恋愛
私はただ夫に好かれたかった。毎日多くの時間をかけて丹念に化粧を施し、豊富な教養も身につけた。しかし夫は私を愛することはなく、別の女性へと愛を向けた。夫と彼女の不倫現場を目撃した時、私は強いショックを受けて、自分が隣国の王女であった時の記憶が蘇る。それを知った夫は手のひらを返したように愛を囁くが、もう既に彼への愛は尽きていた。
【R18】もう一度セックスに溺れて
ちゅー
恋愛
--------------------------------------
「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」
過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。
--------------------------------------
結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
あやかし学園
盛平
キャラ文芸
十三歳になった亜子は親元を離れ、学園に通う事になった。その学園はあやかしと人間の子供が通うあやかし学園だった。亜子は天狗の父親と人間の母親との間に生まれた半妖だ。亜子の通うあやかし学園は、亜子と同じ半妖の子供たちがいた。猫またの半妖の美少女に人魚の半妖の美少女、狼になる獣人と、個性的なクラスメートばかり。学園に襲い来る陰陽師と戦ったりと、毎日忙しい。亜子は無事学園生活を送る事ができるだろうか。
あなたの子ですが、内緒で育てます
椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」
突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。
夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。
私は強くなることを決意する。
「この子は私が育てます!」
お腹にいる子供は王の子。
王の子だけが不思議な力を持つ。
私は育った子供を連れて王宮へ戻る。
――そして、私を追い出したことを後悔してください。
※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ
※他サイト様でも掲載しております。
※hotランキング1位&エールありがとうございます!
隣の人妻としているいけないこと
ヘロディア
恋愛
主人公は、隣人である人妻と浮気している。単なる隣人に過ぎなかったのが、いつからか惹かれ、見事に関係を築いてしまったのだ。
そして、人妻と付き合うスリル、その妖艶な容姿を自分のものにした優越感を得て、彼が自惚れるには十分だった。
しかし、そんな日々もいつかは終わる。ある日、ホテルで彼女と二人きりで行為を進める中、主人公は彼女の着物にGPSを発見する。
彼女の夫がしかけたものと思われ…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる