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3章 続く日常と続かない平穏

7話 しばしのお休みを

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7話
夢…?誰かの話し声がする。の声でもの声でもない。ここはどこだろうか。私、は、前にもこんなことが…。

「はっ!!…いったぁ。」
無理に魔法で強化して動きまわったせいか、飛び起きた瞬間体中に痛みがはしり、最後に殴られたせいか頭もガンガンと痛む。たえきれずそのままベッドに倒れこんでしまう。
「エル!?」
今聞こえた声は…と視線だけで部屋をみると、そこにはイリスくんとカイル、父様とシェリー様、それからいつかに見た副ギルマスのアユルさんがいた。
「エル、起きたのか?!大丈夫か??」
父様が真っ先によってくる。え、ていうか待ってくれ。今エルって呼んだよね?カイル知らなかったよね?え?混乱する頭を必死に働かせる。
「イオ…いや、エリューシア様って呼んだ方がいいのか?とにかく、大丈夫か?」
カイルが遠慮がちに話しかけてくる。その言葉で、ワタシがエリューシアだと聞いたことが分かる。
「…聞いたのですね。イオで構いませんわ。
体中痛いですけど、それ以外は問題ありません。倒れてしまうとは、情けない姿をお見せしました。イリスくんは無事ですか?あのあとどうなりました?」
気を失っていて記憶のない部分を聞こうと、痛む体を無理矢理動かし起き上がる。
「俺は大丈夫だ。シアのおかげで…。俺よりお前だろ…!あんな怪我して…。」
「心配してくれたのね、ありがとうイリスくん。私も大丈夫よ。イリスくんが無事で良かったわ。」
近くに来たイリスくんに思わず手をのばし頭を撫でてやる。
「お前が、死ぬかと…思って!」
泣き出してしまったイリスくんの涙を拭ってやる。彼が泣くところなんて初めてみた。それだけ心配させてしまったのだろう。
「ごめんなさいねぇ。いつもならあの森は低級の魔物が数体しか出てこないところなのよぉ。でも、とあるバ…コホン、頭のよろしくない一部の迷惑な冒険者のせいであの森にゴブリンの群れが行っちゃったようなのぉ。ギルドの代表として本当に申し訳なく思っていますぅ。あのクズ達は相応の罰を受けて貰っているところだから、安心してちょうだい、ふふふ。」
アユルさんが最後は隠そうともせず、状況を説明してくれる。
「そうでしたの。わたくしも、イリスくんもブランシュも無事でしたので、構いませんわ。ありがとうございます。」
そう伝えると、すみませんともう一度謝り、まだ始末がついていないと足早に帰って行ってしまった。
「お前は無事じゃないだろ。」
彼女を見送ったあと、イリスくんに怒られる。
「生きているのは無事というのですわ。」
屁理屈を言ってみると、父様に軽くはたかれる。
「エル、何日起きなかったか分かっているのか?」
重ねてシェリー様にもきつめに声をかけられる。
「イオ、お前は5日間、目を覚まさなかったんだ、です?」
カイルがまだ戸惑ったようにおかしな敬語で教えてくれる。
「!?わたくしそんなに眠っていたのですか?!仕事の方は大丈夫ですか?ああ、屋敷の方も…!」
「バカか!!」
「オーリの言っていたのはこういうとこか…。」
イリスくんにバカと言われ、父様には頭を抱えられてしまう。ていうかオーリは父様に何を言ったんだ。
「とりあえず、お前まだ体中痛いんだろ。大人しく休んでいろ。」
「わ、や、あ…わたくし、わたくしは大丈夫ですわ!動けます!このくらい…いっ…。」
あわてて立ち上がろうとすると、激痛がはしりそのままベッドに逆戻りしてしまう。でも、このくらいなら、座ってやる仕事ならできる。できる、から。
「いいから、大人しく休んでなさい。魔力だってやっと回復したばかりだし。何をそんなに焦ってるのかわからないけどな、休憩も大切だぞ?」
「5日間も何もしていなかったんだもの。そろそろ働かなくては。何か、やっていないと。目を覚ましたのに何もしないのは…。」
何か、何かやらなきゃ。使えない人は必要とされない。わたくしは、必要とされたい…。
「病人を働かせるほどひどい仕事場じゃないさ。回復したらまた手伝ってくれ。」
「エル、今は安静が一番だよ。先生には俺から言っておくから、今は休みなさい。万全な状態でまた学べばいい。」
「そうだぞ。
ああ、お礼がまだだったな。イリスを守ってくれてありがとう。父として、礼を言う。
だが、私はエルも大切だ。もっと自分を大切にしてくれ。」
口々に休むよう説得してくれる大人達。わたくしはクビにされたりしない?使えないって、こんなことくらいでって、思われてない?少しの間、使い物にならなくてもまだ…。
自然と涙がこぼれ落ちる。
「ど、どうしたんだよ。やっぱり痛いのか?」
すぐそばにいたイリスくんがいち早くそれに気付きおろおろと、さっきわたくしがやったように頭を撫で涙を拭ってくれる。
「大丈夫、ですわ。ありがとう。
…それじゃあ、少しだけ休ませていただきます。ごめんなさい。治ったらすぐ戻ります。」
治ってからだぞ。」
ちゃんと、を強調され念押しされる。
「ええ。…実は動くのもつらいくらい体中が…特に頭が痛いんですの。動けるようになったらまた仕事しますわ。
カイル、その時はちゃんとイオとして扱ってくださいね。」
休むと思ったら…休んでいても大丈夫だと分かったら、眠くなってきてしまった。思わずあくびがこぼれてしまう。
「そういうのは早く言えよ!ほら、寝ろ。ちゃんと安静にしてろよ!動いちゃだめだからな?」
イリスくんがあわててわたくしを布団に横たえてくれる。
「おやすみ、シア。」
「ゆっくり休めよ。」
眠気に誘われるがまま、わたくしは再び眠りについた。

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