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3章 続く日常と続かない平穏

4話 王子様の見学会

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「アルフレッド・フィストラルだ。今日はよろしく頼む。」
父様に連れられて、お出掛け用の動きやすい服装をした殿下が入って来る。
「室長のカイルです。ようこそお越しくださいました、アルフレッド殿下。狭いかもしれませんがゆっくり見学していってください。」
カイルが珍しくしっかりとしたあいさつを返す。
「それではフレディ様、俺は外で一応警備してますね。」
殿下を連れてきた父様は、そのまま一応の警備に移るらしい。1人外に出ていくのを見送り、ワタシは一歩前にでる。同い年ということもありワタシがシェリー様と案内することになったので、殿下にあいさつをする。
「アルフレッド殿下、本日はワタシとクライスト公爵閣下が案内いたします。よろしくお願いいたします。」
ワタシの言葉を聞いた殿下は、頷き他の人たちに仕事に戻るように言う。ワタシ以外の皆は各々今すすめている作業にわかれていく。そのうちの1つ、まずは魔法陣の構成をしているイリスくん達の元に向かう。ブランシュが案内するようにワタシ達の前を歩くのが可愛らしかった。
「アルフレッド殿下、こちらでは作る魔導具の陣の考案、構成をしています。」
「フレディも魔法陣については勉強したことがあるだろう?奥にいる少年が私の息子のイリス、目付きが悪いのがレイモンド、手前の少女に見えるのが魔族のサラ。」
ワタシの簡単な説明を引き継ぎ、シェリー様が皆の紹介をする。
「勉強したと言っても初歩だけだ。こんな訳のわからないやつまでやってない。」
「複雑ですよね。これでも簡略化した方なんです。
…サラちゃん、調子はどうだ?」
話し合いをしていたサラちゃんに声をかける。
「うむ。まずまずじゃ。だがこれに魔力を十分にためておくのがやはり難しいのう。」
「やっぱり前の池にためておくイメージのほうが良かったんじゃないか?」
「それだと無駄になる魔力がでてくる。そう言ったのはレイだろ。」
「魔力が逃げないよう上手くためておけるような造りを考えねばならぬなぁ。」
サラちゃんに尋ねたはずなのにどんどんと討論になってしまう。あんたらほんと変わらないな。
「…という感じらしいです、殿下。この研究は2年ほど前からはじめている防御魔法のアクセサリーへの付加の研究なのですが、あと一歩というところで進んでいません。今はこの研究と同時進行で、もう1つ研究をしています。そちらも後で案内させていただきます。」
サラちゃん達は忙しそうなので、次のカイルとカミーユがいる方、つまりもう1つの研究をしている場所に移動しながら説明する。
「皆、楽しそうにやっているな。2年も進んでいないんだろう?その間、努力を認められていないのによく頑張れるな。」
「フレディ…。」
アルフレッド殿下の言葉に、シェリー様が何とも言えない顔をする。殿下の環境を知っているのだろうか。ワタシは少し聞いたくらいで状況なんてよく分からないけど、努力が認められていない、評価されていないってことは分かった。
『僕知ってるよ。皆楽しいんだよ!それとね、あのね、この研究室の中で褒めあってるの!何気ないことでもね、あの考えはよかったとか、こういうことをしてくれたのは助かったとか!僕聞いたんだ!聞いてるだけで嬉しくなる言葉!えぇと、でんか?は言われないの?』
ブランシュが少し重くなってしまった空気を破るように、まだ少したどたどしい口調で殿下に訴える。
「楽しい、か…。」
「アルフレッド殿下は、楽しいと感じることはありますか?」
一度立ち止まり、ここぞとばかりに質問をする。ブランシュナイス!
「ここ最近、ないな…。誰も認めてくれない。俺だって頑張ってる、のに!ただ頑張るだけの、どこが楽しいんだ!」
殿下の眉間にしわがよる。
「認めてもらえないのは、見てもらえないのは、つらいですよね。私はお前には興味がないと言われているようで、自分なんていらないんじゃないかって。ですが殿下、ワタシは思うのです。ワタシは頑張った!ワタシはワタシの努力を知っている!認めている!」
ここで一度言葉を切る。これはワタシじゃなく、わたくしの言葉として、エリューシアとして言いたかったからだ。
「…殿下、わたくしは殿下が努力していることを、知りましたわ。分かったようなフリをするのは本当は良くないんですけど、わたくしは殿下の頑張りを評価いたしますわ。わたくしは、殿下が頑張り続ける限り、ずっと味方ですわ。1人で頑張らなくてもいいのです。たまには周りに目を向け、話して、労いあってもいいのですわ。」
周りが見てくれない、その時の気持ちは痛いほど分かる。わたくしは…いえ、私は途中で折れてしまった。だから、せめて知り合った人だけは折れて欲しくなかった。自己満足の偽善だって言われても構わないから、これだけは言っておきたかった。
「フレディ、私もあなたが頑張っているのを知っている。1人で溜め込ませて悪かった。大人びていても、あなたはまだ8歳の子どもだ。できて当然だと押し付けていたな。遅いかもしれないが、よく、頑張った。」
シェリー様が普段あまり変わらない表情を少し申し訳なさそうな顔に歪め、殿下の頭を撫でる。
「今まで、教わるだけだった。今度、先生とも話してみる。
…また、ここに来てもいいか?」
何か考える素振りをしたあと聞かれ、戸惑う。
「うっえ、あ、たぶん大丈夫だと、思います。ワタシの一存では決められないので、他の方にも聞いてみます。
え、と、とりあえず、続き案内しますね。」
誤魔化して、止めていた足を再び進めた。
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