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2章 魔導院で働いてみましょう

17話 研究室の反応

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次の出勤日。わたくしはブランシュを連れ裏口に立つ。
「ブランシュ、いい子にするのよ?」
『うん!僕、いい子できるよ!』
「偉いわね。それじゃあ行きましょうか。」
わたくしはローブのフードを目深にかぶり、ブランシュを抱き抱える。
『鏡よ(ミラー)―我らの姿を隠しなさい』
新しく完成した姿を隠す魔法を唱える。
『軽くなれ!』
『飛べ(フライ)―我が意のままに』
次に前に開発が完了していた飛ぶための魔法を2つ唱える。ふわっと体が宙に浮かぶのを確認し、そのままもっと上へと念じると屋根よりも高く上がる。
「これでだいぶ通勤が楽になったわ。」
前進、そして加速をして職場に向かう。門の近く、人気の無いところに降り立ち魔法を全て解除する。何くわぬ顔をして門番のお兄さんに魔導院のドッグタグを見せる。ブランシュのことはあらかじめ父様が話をつけておいてくれたらしい。さすが父様。
「おはよう。」
研究室のドアを開けると、皆は朝食をとっている最中だった。
「イオ、おはよ。飯は食ったか?」
「ああ、食べてきた。」
ブランシュを床におろしながら答える。その仕草で皆がブランシュに気づき動きが停止する。ワタシはあえて無視して地下に向かう。
「いや待て待て待て!!」
ガタッと席を立って引き止めてくるカイル。
「何?食事中だろ?そんな風に席を立つのはよくないと思うぞ。」
「そんなあからさまに嫌そうな顔するなよ!傷つくだろ!?」
「用がないなら行くけど。」
「イオさん?もしかしてその子…。」
用件を言わないカイルに変わってカミーユが話しかけてくる。まあ、何を言いたいかは分かってたけどね。うん。
「かわいいだろ?ブランシュっていうんだ。ブランシュ、こっちは奥からカイル、サラちゃん、カミーユ、レイにイリスくんだ。」
『僕、ブランシュ!よろしくね!』
ブランシュのあいさつもすんだのでとっととこの場から退散しようとする。が、また引き止められる。…父様とかから説明されてたんじゃないの?
「公爵様から説明いっていないのか?」
問いかけに頷く面々。説明しといてくれるんじゃなかったの!?父様のばか!めんどくさいじゃないか。
「チッ。しょうがねぇ。説明するから座れ。」
未だに立っているカイルに告げ、ワタシも空いている席にブランシュとともに腰かける。カイルも、俺室長だよな…とか何とか言いながら座り直したので、ワタシも口を開く。
「ブランシュ。白翼狼。ワタシが世話をすることになった。」
すごく省略した説明をする。
「詳細を話せ詳細を!」
納得してくれなかったか。
仕方なく、この間の休日にあったことをところどころぼかしたり誤魔化したりしながら話す。
「お、前よく無事だったな。」
「ご無事で何よりですね。」
「何でそんな無茶をした…。」
あっけにとられている皆。
「結果よければ全てよし!ブランシュはかわいいしウィトラス様もいい狼だった。それで終わりだろ。」
あっけらかんといい放てばため息をつかれる。
「とりあえず、そのブランシュも今度から一緒にここに来るんだな?
はぁ…。この研究室どんどん魔窟になってく気がする…。」
おつかれカイル。がんば。
「それじゃあ、仕事しよう。」
カイルはもう諦めたのか、気持ちを切り替えるようにパンッと手を叩き立ち上がる。
そして1日、仕事をして一度部屋に戻った。

「おい…。」
部屋に入ったとたん話しかけてくるイリスくんを振りかえる。視線で続きを促せば眉をしかめられる。何故だ。
「お前、一歩間違えば死んでたろ!何で、そんな無茶したんだよ。お前だって令嬢だろ…!」
…ん?これ、つまりは心配して、わざわざ朝の話を掘り返してくれたってこと、かな?思わず目を丸くしてイリスくんを凝視してしまう。
「…なんだよ。」
「いえ、心配してくれたのね、と思って。ありがとう。」 
ふふと笑えば、ぷいっと顔を背けられてしまう。
「別に…。」
『僕もう眠い…。』
そこに空気を読まないブランシュ。まあまだ生まれて数日だものね、しょうがない。ちなみにブランシュは今のところ5年後、つまりワタシが11か12歳の時にウィトラス様のとこに戻るらしい。
「あ、ごめんなさい。おやすみなさい、ブランシュ。」
ブランシュをベッドにのせ再びイリスくんのとこに戻る。
「イリスくん、わたくしはまた実験室の方に行ってくるわ。先に寝ていてちょうだい。」
「俺も行く。」
「…そう。分かったわ、行きましょう。」
あれからほぼ毎日実験室に行っているが、何故かイリスくんがたまについてくるようになった。
そして二人で地下の実験室に向かった。
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