上 下
37 / 91
2章 魔導院で働いてみましょう

16話 約束の

しおりを挟む
●16話 約束の

帰ってきたばかりで悪いが父様の書斎にオーリと共にお邪魔する。
「父様、今お話よろしいですか?」
「どうしたんだい?エル、オーリ。」
「えーと…ですねぇ。」
誤魔化しも考えては来たけどいいづらい。
「エル様?私がいいましょうか?」
オーリが気遣ってくれるけど、わたくしが話すと首を降り口を開く。おおまかに起こったことを話し、一度口を閉じる。乙女ゲームの記憶を駆使したところは偶然見えたとかで誤魔化しておいた。
静かに聞いていた父様をちらりと見る。いや静かに聞いていたっていうか驚きすぎて声もでないって感じだな。
「という事で、白翼狼のウィトラス様は一度お帰りになられました。」
「………白翼狼が。エル達は無事?」
「ええ、全員無事ですわ。」
「無事に終わったからよかったもののエル様の行動は誉められたものじゃありませんからね?後でしっかり叱られてください。」
「…。結果よければ全てよしですわ。」
「あのあとまだ何か言いたそうにしてましたよね?あれは何です?あれが良いものでなければ結果よしとは言えませんよ?」
とうとう話さなければならない時がやってきた。
「エル?まだ何かあるのかい?」
ほらぁ…父様もこわごわとしてるじゃないか。わたくしもいやなのよこれ言うの。なんで安請け合いしちゃったんだか…。
「………実は、ですね。あー…1つ、ウィトラス様と約束してしまいまして。」
言葉を濁す。約束?と二人の疑問の声が重なる。
「その約束とはどんなものなんだ?」
父様がしぶるわたくしを促す。
「ウィトラス様は子持ちだと言いましたよね?」
ここまで言って言葉を一度切る。二人が、まさか、と言う顔をしたからだ。
「その、まさかです。ウィトラス様はわたくしにお子さんを預けたい、と。なんでも色んなものを見聞きしてほしいらしくて…。」
どうしましょう、と首を傾げてみる。
「どうしようもなにも、受けるしかないだろう…。」
「そうなんですよね。という事で一応受けてはあるのですが、問題なのはわたくしに預けたいと言っているということですの。」
「そうだねぇ…。エルの立場はまだいいとして、魔導院にも行っているし教育もある。数年たてば学園にも行かなければいかないし社交界もある。」
あれ、こうやって言葉で整理すると6歳ながらに忙し過ぎない?過労死しても文句はいえない。
「エル様、いつ休んでるんですか?」
オーリも同じことを思ったようで、問いかけてくる。
「今日、休みましたわ。休みじゃなくなったけれども。それに、定期的に休みを貰っていますわ。」
「…この間の休みの日に私のところに剣術の稽古つけてくださいって来たのは誰ですか。その前の休みも…。」
「さぁ?誰かしらね?
それよりも、こっちですわ。」
はぁ、と諦めたようにため息をつくオーリ。
「エル、ちゃんと休息も必要だからな?」
「分かっていますわ。
それで、数日後に来るということなのでここと、それから魔導院に連れていく許可は貰えますか?」
「大丈夫だと思うけど…。あの研究室ならちょっとやそっとのことじゃ何も言われないだろうし。」
「それもそうですわね。では、わたくしが預かるということで。何とかして見せますわ。」
「ああ、よろしく頼む。俺たちも極力協力しよう。」
「ええ、サポートします。」
これで話し合いは終わり、解散してその日はそのまま夕飯を食べ、休んだ。

そして、それはちょうど次の帰省の時だった。
「タイミングがいいわね。」
魔導院から帰って着替え終わった頃のことだった。屋敷内が突然あわたただしくなり、同時にわたくしの部屋をノックする音がなる。
「エリューシアお嬢様、ウィトラス様がおいでになりました。中庭でお待ちです。」
ついに、ウィトラス様がいらっしゃった。
中庭に行くとウィトラス様と、その背に隠れるように子狼がいた。
「お待たせいたしました、ウィトラス様。」
『エリューシア。 子が産まれたのでな。立派なオスよ。預かってくれるか?』
再度確認してくるウィトラス様に頷く。
「まずは、ご出産おめでとうございます。ウィトラス様の子を預かれること、光栄に思いこそ断ることなんてありませんわ。精一杯育てさせていただきます。」
『そうか、それは良かった。では、我が子を頼む。名前も、決めてやってくれ。』
「!?わたくしが、ですか?いいのですか?わたくしが名付け親で。」
『うむ。そなたなら良い名をつけてくれるであろうと思ってな。』
責任重大!!
どうしましょう…。白翼狼…白…ホワイト?ヴァイス?ニーヴェオ?ビアンカ、は女の子っぽいかしら。あ、ブランシュ。全部日本語にしたら白だけど。安直かもしれないが、この子にはブランシュがあうと思った。
「ブランシュ、はどうでしょう?」
『ブランシュ。ブランシュ、いい名だな。ブランシュ、元気にやるのだぞ。』
すでにブランシュには説明済みなのか、頼んだ、と再度わたくしに言うとそのまま帰って言ってしまった。中庭にはわたくしとブランシュのみ。
「ブランシュ、わたくしはエリューシア。これからよろしくね。」
『よろ、しく?』
こてん、と首を傾げるブランシュ。ブランシュはすでに柴犬の成犬ほどの大きさで、背中には白翼狼の証である翼がちょこんとついていた。
「もう暗いわね。中に入りましょう。おいで。」
ペットなんて飼ったことないけど、皆がサポートしてくれるらしいので、がんばろう、と再度気を引き締め屋敷の中に戻った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない

陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」 デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。 そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。 いつの間にかパトロンが大量発生していた。 ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?

ここは乙女ゲームの世界でわたくしは悪役令嬢。卒業式で断罪される予定だけど……何故わたくしがヒロインを待たなきゃいけないの?

ラララキヲ
恋愛
 乙女ゲームを始めたヒロイン。その悪役令嬢の立場のわたくし。  学園に入学してからの3年間、ヒロインとわたくしの婚約者の第一王子は愛を育んで卒業式の日にわたくしを断罪する。  でも、ねぇ……?  何故それをわたくしが待たなきゃいけないの? ※細かい描写は一切無いけど一応『R15』指定に。 ◇テンプレ乙女ゲームモノ。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾もあるかも。 ◇なろうにも上げてます。

【完結】死がふたりを分かつとも

杜野秋人
恋愛
「捕らえよ!この女は地下牢へでも入れておけ!」  私の命を受けて会場警護の任に就いていた騎士たちが動き出し、またたく間に驚く女を取り押さえる。そうして引っ立てられ連れ出される姿を見ながら、私は心の中だけでそっと安堵の息を吐く。  ああ、やった。  とうとうやり遂げた。  これでもう、彼女を脅かす悪役はいない。  私は晴れて、彼女を輝かしい未来へ進ませることができるんだ。 自分が前世で大ヒットしてTVアニメ化もされた、乙女ゲームの世界に転生していると気づいたのは6歳の時。以来、前世での最推しだった悪役令嬢を救うことが人生の指針になった。 彼女は、悪役令嬢は私の婚約者となる。そして学園の卒業パーティーで断罪され、どのルートを辿っても悲惨な最期を迎えてしまう。 それを回避する方法はただひとつ。本来なら初回クリア後でなければ解放されない“悪役令嬢ルート”に進んで、“逆ざまあ”でクリアするしかない。 やれるかどうか何とも言えない。 だがやらなければ彼女に待っているのは“死”だ。 だから彼女は、メイン攻略対象者の私が、必ず救う⸺! ◆男性(王子)主人公の乙女ゲーもの。主人公は転生者です。 詳しく設定を作ってないので、固有名詞はありません。 ◆全10話で完結予定。毎日1話ずつ投稿します。 1話あたり2000字〜3000字程度でサラッと読めます。 ◆公開初日から恋愛ランキング入りしました!ありがとうございます! ◆この物語は小説家になろうでも同時投稿します。

婚約破棄ですか。ゲームみたいに上手くはいきませんよ?

ゆるり
恋愛
公爵令嬢スカーレットは婚約者を紹介された時に前世を思い出した。そして、この世界が前世での乙女ゲームの世界に似ていることに気付く。シナリオなんて気にせず生きていくことを決めたが、学園にヒロイン気取りの少女が入学してきたことで、スカーレットの運命が変わっていく。全6話予定

皇太子の子を妊娠した悪役令嬢は逃げることにした

葉柚
恋愛
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢のレイチェルは幸せいっぱいに暮らしていました。 でも、妊娠を切っ掛けに前世の記憶がよみがえり、悪役令嬢だということに気づいたレイチェルは皇太子の前から逃げ出すことにしました。 本編完結済みです。時々番外編を追加します。

転生したら攻略対象者の母親(王妃)でした

黒木寿々
恋愛
我儘な公爵令嬢リザベル・フォリス、7歳。弟が産まれたことで前世の記憶を思い出したけど、この世界って前世でハマっていた乙女ゲームの世界!?私の未来って物凄く性悪な王妃様じゃん! しかもゲーム本編が始まる時点ですでに亡くなってるし・・・。 ゲームの中ではことごとく酷いことをしていたみたいだけど、私はそんなことしない! 清く正しい心で、未来の息子(攻略対象者)を愛でまくるぞ!!! *R15は保険です。小説家になろう様でも掲載しています。

【完結】公爵令嬢はただ静かにお茶が飲みたい

珊瑚
恋愛
穏やかな午後の中庭。 美味しいお茶とお菓子を堪能しながら他の令嬢や夫人たちと談笑していたシルヴィア。 そこに乱入してきたのはーー

村娘になった悪役令嬢

枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。 ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。 村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。 ※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります) アルファポリスのみ後日談投稿しております。

処理中です...