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2章 魔導院で働いてみましょう

1話 同僚、兼攻略キャラ

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ついに魔導院に入る日。
ワタシはイオの格好をして、父様に連れられ魔導院塔の小会議室にいた。部屋にはワタシと父様、アル様。これからシェリー様とイリス様がくることになっている。まぁイリス様への事情説明ですね。
自分でだした紅茶をすすっていると、コンコンとノックの音がする。

「どうぞ。」

アル様が返事をする。入ってきたのはシェリー様と少年。一応魔法で作った火傷の痕は少し長めの前髪を整え隠す。こうすると右目がほぼ見えなくなるが子供には少々刺激が強いかという配慮のつもりである。

「遅れてすまない。」

そういいつつ席に座るシェリー様と天使。
いやほんと天使だから。シェリー様と同じ空色の瞳にアッシュブルーの髪。アザレアのイリス・クライストの特徴とも一致するかわいい彼。無表情でなお滲み出るかわいさといったらもう。ここで悶えないわたくしを誉めてほしいくらいだ。

「エル…いやイオ、こいつがこの間言っていた私の息子のイリスだ。」

あら、シェリー様何も言ってないのにワタシをエルって言っちゃったよ。まあバラす予定だったからいいんだけど。

「はじめまして、イリス様。イオとしてここであなた様と一緒にお仕事をさせていただくことになりました、エリューシア・イルファスと申します。イオとお呼びください。」

一度立ち上がり深々と頭をさげる。ついでにかいつまんで事情を説明してしまう。
今更だがこの中で一番地位が低いのがわたくしだったりする。イオとしてのワタシはもちろんだが、現役公爵と後継者に比べれば、相続権がなく政略結婚くらいにしか役に立たない令嬢わたくしは低くて当然である、とわたくしは思っている。

「…イリス。」

ワタシの説明とあいさつに、名前だけで返すイリス様。無表情な顔ともあいまって悪役のわたくしより冷たい印象になってしまう。仲良くなれば表情変えてくれるんだけどね。

「イリス君も相変わらずだなぁ。まあそのうち仲良くなってくれればいいか。そういえば、イリス君は魔力測定いくつだった?」

アル様がイリス様をみて苦笑したあとシェリー様に問いかける。

「…イリスの魔力は、」

いいよどむシェリー様。わたくしという前例があるから気にしなくていいのに。それにイリス様はわたくしと違ってすでに魔力多かったり頭がいいってことは知れわたってるんだから。

「イリスの魔力は、今の時点で1700だった。」

部屋に静寂が満ちる。言っておくがわたくしとの違いが200だけと侮ってはいけない。200あれば使える魔法の幅はグンと広がる。しかも6歳。

「いやぁ、今年の子はすごいねぇ。これからが楽しみだ。」

あっけらかんと言ってのけるアル様。

「そうだな。エルといいイリスといい。期待してるよ、頑張ってくれ。」

父様もわたくしの頭を撫でながら告げる。その手はふりはらっておくが。

「それで?話はちゃんとしたのかい?」

魔力に問題はないと、違う質問をするアル様。それはわたくしも気になる。

「したよ。ありがとう、エル。」

わずかに頬を緩め分かりにくく微笑むシェリー様。なにこの人かわいいなぁ。いや大人の人にかわいいは失礼か。あ、イリス様が少し驚いた顔してる。こっちも分かりにくいけど。いやぁ、人の表情に敏感でよかったよ。

「わたくしは何もしていません。お話をしようとしたのはシェリー様ですもの。しっかりお話が出来たのならよかったですわ。」

前髪で顔半分隠れているのでわたくしも負けず劣らず分かりにくいが、柔らかく微笑む。目付き悪いからね。意識して柔らかくしないとまさに悪役の微笑みになってしまうのだ。
隣で、シェリーずるいという父様の呟きが聞こえたのは無視しておこう。

「よかったよかった。それじゃあ簡単な説明しちゃおうか。」

どこからか紙を取り出したアル様は笑いながら説明をはじめる。
それによると、ワタシとイリス様は同じ研究室に入るらしい。その研究室は主に魔導具の研究をしているところで、今は防御魔法をアクセサリーや小物などへ付加する実験をしているらしい。楽しそう。
わたくしは淑女教育等もあるので緊急時以外の勤務は週の半分ほどとなった。

「それで、イリス君は話し合って寮に入ることにになったんだが、エル嬢はどうしたい?」

寮かぁ。寮もいいな。

「いや、エルは…」
「お前に聞いてない。」

父様が答えようとするのをアル様が遮る。

「そうですわねぇ…。わたくしとしては寮もいいと思いますの。なにより通勤が楽ですし。でも、わたくし婚約者候補としての勉強と淑女教育もありますのよ。とりあえずオーリ先生の授業は中止よね…。ああ、イオで帰るとバレる危険は増えるわねぇ。それならやっぱり寮にした方がいいのかしら。でもそうなると…。」
「エル嬢、エル嬢。」

いつの間にか説明から考え事を一人言のように呟くかたちになっていたことに、声をかけられることで気づく。

「あっ、すみません。つい。」

恥ずかしい。わたくしとしたことが。

「そんなに悩むなら、エル嬢の部屋も用意しておこう。泊まりたいときに使えばいいさ。ああ、でもそうなると、イリス君と相部屋しかないな。」
「「は!?」」

イリス様が珍しく大きく表情を変え、焦る。もう1人はもちろん父様。

「わたくしはイリス様さえよければ構いませんわ。外聞は少し悪くなるかもしれませんが…。最悪仮眠室で寝ますわ。バレるよりマシですもの。」

正直寝れればどこでもいい。最悪多少のリスクはあるが家に帰ればいいのだ。
つまりイリス様次第。

「俺は反対だぞ!?」
「お前、ほんとにそれでいいのか…?」

わたくしの言葉に父様は声をあらげ、イリス様は訝るような顔をする。はじめて長文喋ったね、イリス様。

「ええ。構いませんわ。イリス様が嫌と言うなら通いでもなんとかなりますし。」

父様は完全無視。アル様が黙らせてくれている。ありがたや。

「別に…お前がいいならそれでいい。」
「決まったかな?部屋は今日中に準備しておくよ。仕事は明日からね。来たら受付の人に言えばいいよ、案内するよう言っておくから。」

ありがとうございます、と二人そろってお礼を言う。父様はもう抗えないと悟ったのかずーんと沈んでいる。シェリー様、慰めなくても大丈夫ですよ。
それをスルーして懐から2つ、プレートのついたネックレスを取り出したアル様。アル様のスルースキルもなかなかですね。

「はい、これ。職員証だから来るときは首からさげてきてね。」

受けっとたネックレスのプレートには、名前と魔導院の紋章がかかれていた。

「分かりました。明日からイオとしてよろしくお願いいたしますわ。」
「よろしく、お願いします。」

二人で頭をさげる。


その日はそれでお開きになった。
明日から頑張らねば。

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