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1章 乙女ゲームに転生したようです
13話 公爵令嬢のつとめ
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何事もないとは言えなかった6歳の誕生パーティーから数ヶ月たった。
もめごとなんてなかったかのように落ち着いた日常。
子爵とは会う機会がなかったが、噂によると他の貴族の目は以前より厳しいものになっているらしい。
自業自得、ざまぁみやがれ。
しかしパーティーの後しばらく落ち着いていた日々は今日、あることによって壊されようとしていた。これはわたくしの運命の分かれ道でもあったと思う。
ある日のお昼。
「エル、大切な話があるんだ。この後父さんの書斎に来てくれ。」
いつも通りマシューとオーリと一緒に昼食を食べていた時、父様が現れそう告げた。
「わかりました、父様。食べ終わったらすぐに向かいます。」
返事をすると、軽く頷きすぐに食堂を後にする父様。よほど忙しいのだろう。
「そういうことなので、わたくし午後の授業は欠席いたしますわ。」
「分かりました。」
オーリの了承をうけ、父様が急いでいたようなのでわたくしも急いで、しかし令嬢らしく優雅にご飯を食べ終える。
「ごちそうさま。ではわたくしは行きますわ。マシューとオーリ先生は気にせずゆっくり食べて下さいね。」
最近じゃもうオーリと二人の時以外はずぅっと敬語だ。
食器等の片付けは少し心苦しいがメイドに全て任せ─前に片付けようとしたら怒られた─父様の書斎に早歩きで向かう。早歩きには見えないように、優雅に、と言う難しい条件付きで。これも淑女教育の1つなのだ。
しばらく歩くと、父様の書斎の扉が見えてくる。ノックをして、名前を告げると例のごとくセバスさんが扉を開けてくれる。
「エル、来たか。とりあえず座れ。」
珍しくわたくしの前でも難しい顔をしたままの父様が自身の対面にあるソファーをすすめる。これが当主の顔なのだろう、と思いつつおとなしく座ると、父様が1通の手紙を差し出してくる。封はもうあけられていて、中を読むよう促される。
要約すると、そこには……
第2王子の婚約者候補の候補になったよ!魔力測定をお願いします。
来ました。婚約者候補ですよ。
アザレア攻略キャラでもある第2王子。そうか、6歳だったっけ、婚約者候補になるの。
公爵家で王子と同い年ですもんね。そりゃそうですよ、と貴族社会を学んだ今なら思います。
プレイしていたときはただのご都合主義だと思ってました。
そして、きっと魔力測定は問題なくクリアしちゃうだろう。なんてったってチート令嬢のエリューシア。しょうがないですよね、これも公爵令嬢のつとめです。
「あまり驚かないんだな。そういうことだ、エルが第2王子、アルフレッド様の婚約者候補、の候補になった。明日さっそく王城に魔力測定に行くことになった。魔力測定で一定以上の魔力がでれば晴れて候補となって王子妃教育が始まるらしい。」
魔力測定はこういうことがない限り、貴族は学園に入る─貴族は日本で言う小学生時代に家庭教師などをつける場合が多いので高等部に入学する、つまり15歳─2年前、12歳の時に魔導院で受けるらしい。魔力の有無で学校が、質や量でクラスが決まるらしい。ここに来る前にオーリが体験したと教えてくれた。
「ええ、まあアルフレッド王子とは同い年ですもの。いつかこういう話があがるとは思っていましたわ。わかりました、明日ですね。」
あっさりと承諾したわたくしに、
「もっと抵抗してくれればこんな話蹴ったんだけどなぁ。俺のかわいいエルには自分が好きになった人と結婚してほしいからね。まぁ変なやつなら反対するけど。」
公爵当主としてはありえない発言。まぁ父様も恋愛結婚らしいし何も言えないけれど。
「第2王子と婚約すればこの家にとっても、次期当主のマシューにとっても利益になります。わたくしはそのためにいるようなものなのです。今さら抵抗する気もありません。」
一応言っておくが6歳の発言。ごめんなさい言い過ぎた感満載ですね。記憶が戻ってから言い過ぎたと何回反省したことでしょう、学びませんね。あはは。
「当主としてはその気持ちなんだけどね。一人の娘の親としてはやっぱり幸せになってほしいんだよ。」
苦笑しながら言う。
最近だと敬語もあまり役に立たないと言うか、距離を取られていることに気がついているのに、それを気にせず甘い。はやめに対策をとらなければ…。
「大丈夫です。まだ候補の候補ですもの。どうなるかは分かりませんわ。まあ、候補から落ちても気にせず好きに使ってください。」
使い物になれば、ですけどね。と心の中で付け足す。糾弾されて没落しないことを祈るわ。
「はぁ…。そういうこというなよ、まだ6歳だろー?親離れ早すぎるわ。もっと夢見てていいんだぞ?そして父様に甘えろ!」
剥がれかかっていた当主としての雰囲気から親の雰囲気に完全に変わった父様にぐしゃぐしゃと頭を撫でられる。
「わっ何するんですか父様。やめてください。」
髪がぐちゃぐちゃになる、と顔をしかめる。
…ほんとは照れてるだけ。ちょっとだけだけどね、うん。ちょっとだけ。
「ああ、娘が反抗期だ…。」
「別に反抗的なわけではありません。甘やかす程度を考えて欲しいだけですわ。
これでわたくしが甘えたら溶けるほど甘やかすでしょう、父様なら。これで釣り合いがとれているのです。」
後ろでセバスさんが笑っているのは気にしないこととする。これで少しでも甘やかすのが減ってくれると助かるんですけどね…。
「はぁ。とりあえず、明日朝食食べたら出発するからな。用意しとけよ。マナーの先生には俺から休みだって言っとくから。」
ため息をつき諦めた父様は頷いたわたくしの髪を再度撫で、執務机にもどる。
わたくしも立ち上がり、何も言わず扉の方に向かうと、来たときと同様セバスさんが開けてくれる。それに軽く頭をさげ、自分の部屋に向かった。
部屋にもどり、念のため鍵をかける。
「はぁーー。どうしましょう…。」
ため息をつきながら、クッションを抱き込みそのままソファーに倒れこみ、─はしたないとか言うな。一人だからセーフだ。─今後のことを考える。
まず、これで魔力測定をしてチート魔力がバレるでしょう?
絶対に王子妃候補確定よね。
もしかしたら第一王子の…王太子妃に格上げされてしまうかもしれないわね…。なんてったってチート令嬢。
いや、アザレアでは格上げされなかったわ、そこは大丈夫だと思いたいわね。
ああ、もうチート魔力を理由に魔導院にでも入れないかしら。
そしてあわよくば婚約者候補から抜けられないかしら…。
父様に掛け合ってみるのもありね。でもさすがに6歳で働きはじめるのはないか。
たしか10歳で天才公爵子息で攻略対象のイリス・クライストが魔導院入りするからわたくしも入るとしたらその辺りよね。
でもイリス様に会うのは…。ああもうめんどくさいなぁ。
あ、となるとオーリとの勉強会も10歳まで無くなるのかしら。王子妃教育が始まるものね…。
ほんとは女に学なんて必要ないと思われているわけだし。個人勉強になるのよね、つらいわぁ。
オーリに資料とか辞書を借りてこなくては…。ああでもあと2年でオーリは学生になるのよね。
…まぁ、とりあえずまずは明日の魔力測定次第ね。
そうなんとなく今後の方針を決め、今日はもうやることもないのでオーリに借りた異国語の本と辞書を机に広げ、夕食まで勉強するのでした。
もめごとなんてなかったかのように落ち着いた日常。
子爵とは会う機会がなかったが、噂によると他の貴族の目は以前より厳しいものになっているらしい。
自業自得、ざまぁみやがれ。
しかしパーティーの後しばらく落ち着いていた日々は今日、あることによって壊されようとしていた。これはわたくしの運命の分かれ道でもあったと思う。
ある日のお昼。
「エル、大切な話があるんだ。この後父さんの書斎に来てくれ。」
いつも通りマシューとオーリと一緒に昼食を食べていた時、父様が現れそう告げた。
「わかりました、父様。食べ終わったらすぐに向かいます。」
返事をすると、軽く頷きすぐに食堂を後にする父様。よほど忙しいのだろう。
「そういうことなので、わたくし午後の授業は欠席いたしますわ。」
「分かりました。」
オーリの了承をうけ、父様が急いでいたようなのでわたくしも急いで、しかし令嬢らしく優雅にご飯を食べ終える。
「ごちそうさま。ではわたくしは行きますわ。マシューとオーリ先生は気にせずゆっくり食べて下さいね。」
最近じゃもうオーリと二人の時以外はずぅっと敬語だ。
食器等の片付けは少し心苦しいがメイドに全て任せ─前に片付けようとしたら怒られた─父様の書斎に早歩きで向かう。早歩きには見えないように、優雅に、と言う難しい条件付きで。これも淑女教育の1つなのだ。
しばらく歩くと、父様の書斎の扉が見えてくる。ノックをして、名前を告げると例のごとくセバスさんが扉を開けてくれる。
「エル、来たか。とりあえず座れ。」
珍しくわたくしの前でも難しい顔をしたままの父様が自身の対面にあるソファーをすすめる。これが当主の顔なのだろう、と思いつつおとなしく座ると、父様が1通の手紙を差し出してくる。封はもうあけられていて、中を読むよう促される。
要約すると、そこには……
第2王子の婚約者候補の候補になったよ!魔力測定をお願いします。
来ました。婚約者候補ですよ。
アザレア攻略キャラでもある第2王子。そうか、6歳だったっけ、婚約者候補になるの。
公爵家で王子と同い年ですもんね。そりゃそうですよ、と貴族社会を学んだ今なら思います。
プレイしていたときはただのご都合主義だと思ってました。
そして、きっと魔力測定は問題なくクリアしちゃうだろう。なんてったってチート令嬢のエリューシア。しょうがないですよね、これも公爵令嬢のつとめです。
「あまり驚かないんだな。そういうことだ、エルが第2王子、アルフレッド様の婚約者候補、の候補になった。明日さっそく王城に魔力測定に行くことになった。魔力測定で一定以上の魔力がでれば晴れて候補となって王子妃教育が始まるらしい。」
魔力測定はこういうことがない限り、貴族は学園に入る─貴族は日本で言う小学生時代に家庭教師などをつける場合が多いので高等部に入学する、つまり15歳─2年前、12歳の時に魔導院で受けるらしい。魔力の有無で学校が、質や量でクラスが決まるらしい。ここに来る前にオーリが体験したと教えてくれた。
「ええ、まあアルフレッド王子とは同い年ですもの。いつかこういう話があがるとは思っていましたわ。わかりました、明日ですね。」
あっさりと承諾したわたくしに、
「もっと抵抗してくれればこんな話蹴ったんだけどなぁ。俺のかわいいエルには自分が好きになった人と結婚してほしいからね。まぁ変なやつなら反対するけど。」
公爵当主としてはありえない発言。まぁ父様も恋愛結婚らしいし何も言えないけれど。
「第2王子と婚約すればこの家にとっても、次期当主のマシューにとっても利益になります。わたくしはそのためにいるようなものなのです。今さら抵抗する気もありません。」
一応言っておくが6歳の発言。ごめんなさい言い過ぎた感満載ですね。記憶が戻ってから言い過ぎたと何回反省したことでしょう、学びませんね。あはは。
「当主としてはその気持ちなんだけどね。一人の娘の親としてはやっぱり幸せになってほしいんだよ。」
苦笑しながら言う。
最近だと敬語もあまり役に立たないと言うか、距離を取られていることに気がついているのに、それを気にせず甘い。はやめに対策をとらなければ…。
「大丈夫です。まだ候補の候補ですもの。どうなるかは分かりませんわ。まあ、候補から落ちても気にせず好きに使ってください。」
使い物になれば、ですけどね。と心の中で付け足す。糾弾されて没落しないことを祈るわ。
「はぁ…。そういうこというなよ、まだ6歳だろー?親離れ早すぎるわ。もっと夢見てていいんだぞ?そして父様に甘えろ!」
剥がれかかっていた当主としての雰囲気から親の雰囲気に完全に変わった父様にぐしゃぐしゃと頭を撫でられる。
「わっ何するんですか父様。やめてください。」
髪がぐちゃぐちゃになる、と顔をしかめる。
…ほんとは照れてるだけ。ちょっとだけだけどね、うん。ちょっとだけ。
「ああ、娘が反抗期だ…。」
「別に反抗的なわけではありません。甘やかす程度を考えて欲しいだけですわ。
これでわたくしが甘えたら溶けるほど甘やかすでしょう、父様なら。これで釣り合いがとれているのです。」
後ろでセバスさんが笑っているのは気にしないこととする。これで少しでも甘やかすのが減ってくれると助かるんですけどね…。
「はぁ。とりあえず、明日朝食食べたら出発するからな。用意しとけよ。マナーの先生には俺から休みだって言っとくから。」
ため息をつき諦めた父様は頷いたわたくしの髪を再度撫で、執務机にもどる。
わたくしも立ち上がり、何も言わず扉の方に向かうと、来たときと同様セバスさんが開けてくれる。それに軽く頭をさげ、自分の部屋に向かった。
部屋にもどり、念のため鍵をかける。
「はぁーー。どうしましょう…。」
ため息をつきながら、クッションを抱き込みそのままソファーに倒れこみ、─はしたないとか言うな。一人だからセーフだ。─今後のことを考える。
まず、これで魔力測定をしてチート魔力がバレるでしょう?
絶対に王子妃候補確定よね。
もしかしたら第一王子の…王太子妃に格上げされてしまうかもしれないわね…。なんてったってチート令嬢。
いや、アザレアでは格上げされなかったわ、そこは大丈夫だと思いたいわね。
ああ、もうチート魔力を理由に魔導院にでも入れないかしら。
そしてあわよくば婚約者候補から抜けられないかしら…。
父様に掛け合ってみるのもありね。でもさすがに6歳で働きはじめるのはないか。
たしか10歳で天才公爵子息で攻略対象のイリス・クライストが魔導院入りするからわたくしも入るとしたらその辺りよね。
でもイリス様に会うのは…。ああもうめんどくさいなぁ。
あ、となるとオーリとの勉強会も10歳まで無くなるのかしら。王子妃教育が始まるものね…。
ほんとは女に学なんて必要ないと思われているわけだし。個人勉強になるのよね、つらいわぁ。
オーリに資料とか辞書を借りてこなくては…。ああでもあと2年でオーリは学生になるのよね。
…まぁ、とりあえずまずは明日の魔力測定次第ね。
そうなんとなく今後の方針を決め、今日はもうやることもないのでオーリに借りた異国語の本と辞書を机に広げ、夕食まで勉強するのでした。
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