上 下
76 / 91
4章 ついに始まる乙女ゲーム

15話 不安定な目覚め

しおりを挟む

ゆっくりとまぶたを持ち上げる。
闇以外の色に目がチカチカして何度か瞬きをした。

見慣れた天井。自分の部屋のベッドだと言うことに気がつく。わたくしは…。

体を起こそうとすると、妙に軋む身体。
何とか身体を起こそうと四苦八苦していると、コンコンとノックの音が聞こえ返事をする前に誰かが入ってくる。

「失礼します…。」

静かに入って来たのは…

「…オー、リ?」

喉がカラカラで声が出ない。掠れた声で訪ねると、目を丸くする彼の姿。

「え、る…さま…エル様!?」

慌てたように手に持っていた水桶を置いてこちらに駆け寄ってくる。

「っよかった…!起きた…ちゃんと、戻ってきてくれた…!」
「どういう、こと?ケホッケホッ…」

言葉を発しただけで噎せてしまう。

「あっ水!ちょっと待って!起きれる?」

彼にしては珍しく動揺したような動きでピッチャーからコップに水をそそぐ。起きれるか、という問いに否と答えると、たくさんのクッションを背中に入れて起き上がらせてくれた。

「はい、どうぞ。」

オーリが手渡してくれたコップを受け取ろうと腕を伸ばしたはいいが手に力が入らないことに気づく。このままコップを持っても落とすだけだろう。

「力、が…?」
「あ、そうか…寝たきりだったから…。
ごめん、エル様。嫌かもしれないけど…」

そう呟くと、彼は渡そうとしていたコップをそのままわたくしの口元に近づける。

「これで飲める?」
「え、ええ…。」

少し戸惑いながらも大人しくコップに口づける。ゆっくりと一口ずつ飲ませてくれるオーリの優しさに甘えこくりこくりと水を飲み干す。

「だいぶ、よくなったわ。ありがとう。」
「いえっ…。あ、と、とりあえずリュド様達を呼んでくるね!」

何故か言葉を詰まらせたオーリは、顔を隠すように視線をずらすとそのまま部屋を出て行ってしまった。


数分後。バタバタと慌ただしい足音が幾つも聞こえたかと思ったらバン!と勢いよく扉があく。

「エル!!」

一番最初に飛び込んできたのは父様。その後ろにマシュー、イリスくんと続き…。

「イオ!」

何故か魔導院の研究室メンバーまで。

「目が覚めたんだなエル!よかった…!」

涙目の父様が近くまで来てわたくしの手をとる。

「あ、の。状況を説明していただけませんか?あと、さすがに何か羽織るものを…。」

寝起き?のわたくしには父様が涙してまでわたくしの目覚めを喜ぶ理由も、魔導院の人達がここにいる理由も分からない。そもそも彼らはわたくしがイオだとは知らないはずだし、言うつもりもなかった。なのに、知っている風でここにいるのは何故なのか。
それとは別に、寝ていたからかわたくしが今着ているのは薄いネグリジェのみなのが気になった。とても人前に出るような格好じゃない。

「エル様どうぞ…。」

目をそらしながらオーリが肩にかけてくれたのはストール。呼びに行ったついでに持ってきてくれたのだろう。

「ありがとう、オーリ。
…それでこれはどういう状況なのですか?」

オーリにお礼を言ってから再度問うと、苦い顔をした彼が口を開く。

「エル様、倒れたことは覚えてる?」
「たおれ…?」
「俺とクリストフ様と話していた時に。」
「そう…いえば…頭がくらくらして…そこから記憶が…。」
「あれから、一ヶ月たったんだよ。」
「いっ!?え…?」
「一ヶ月、エル様は目を覚まさなかったんだ。俺達がどれだけ心配したか分かる?」

クリスさんの部屋で、話をしていて、何故か涙がとまらなくて、頭がくらくらして…。
そうか、わたくしは倒れたのか…。
そして、一ヶ月も眠り続けていた。

「ご迷惑をおかけしました…。」

すみません、と続けると暫しおちる沈黙。
それを破ったのは、イリスくんだった。

「迷惑どうこうじゃない!つらかったそれを何で俺達に言わない!!なんで、少しでも相談してくれないんだ!俺達がそんなに頼りないか?俺達がどれだけ心配したと思って…っ」
「イリスくん…!落ち着いて!」

掴みかかってくるような勢いで前に出てきた彼をマシューがとめる。

「ごめん、なさい。ごめ、ごめんなさい…うっ…。」

ぽろぽろと、涙がこぼれる。泣きたくなんかないのに、気持ちが落ち着かなくて、まるで幼い子供にもどったように…。

「イリス!まだ不安定なんだから刺激するなって言っただろ!」

それまで黙って後ろにいたカイル達魔導院のメンバーが前に出てきてイリスくんを後ろに追いやる。

「イオさん、失礼しますよ。」

そういってわたくしの手に触れてきたのはカミーユ。

『・・-・ -- ・・- -・- ・---・ -- ・- ・-- --・-・ ・---』

カミーユが人とは違う言語を紡いだ瞬間、ふわりとあたたかい何かが体を巡っていく。ゆったりと気持ちが落ち着いていくのを感じた。



















─────────────────







今年はありがとうございました。
来年もよろしくお願いいたします。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない

陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」 デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。 そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。 いつの間にかパトロンが大量発生していた。 ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?

【完結】死がふたりを分かつとも

杜野秋人
恋愛
「捕らえよ!この女は地下牢へでも入れておけ!」  私の命を受けて会場警護の任に就いていた騎士たちが動き出し、またたく間に驚く女を取り押さえる。そうして引っ立てられ連れ出される姿を見ながら、私は心の中だけでそっと安堵の息を吐く。  ああ、やった。  とうとうやり遂げた。  これでもう、彼女を脅かす悪役はいない。  私は晴れて、彼女を輝かしい未来へ進ませることができるんだ。 自分が前世で大ヒットしてTVアニメ化もされた、乙女ゲームの世界に転生していると気づいたのは6歳の時。以来、前世での最推しだった悪役令嬢を救うことが人生の指針になった。 彼女は、悪役令嬢は私の婚約者となる。そして学園の卒業パーティーで断罪され、どのルートを辿っても悲惨な最期を迎えてしまう。 それを回避する方法はただひとつ。本来なら初回クリア後でなければ解放されない“悪役令嬢ルート”に進んで、“逆ざまあ”でクリアするしかない。 やれるかどうか何とも言えない。 だがやらなければ彼女に待っているのは“死”だ。 だから彼女は、メイン攻略対象者の私が、必ず救う⸺! ◆男性(王子)主人公の乙女ゲーもの。主人公は転生者です。 詳しく設定を作ってないので、固有名詞はありません。 ◆全10話で完結予定。毎日1話ずつ投稿します。 1話あたり2000字〜3000字程度でサラッと読めます。 ◆公開初日から恋愛ランキング入りしました!ありがとうございます! ◆この物語は小説家になろうでも同時投稿します。

ここは乙女ゲームの世界でわたくしは悪役令嬢。卒業式で断罪される予定だけど……何故わたくしがヒロインを待たなきゃいけないの?

ラララキヲ
恋愛
 乙女ゲームを始めたヒロイン。その悪役令嬢の立場のわたくし。  学園に入学してからの3年間、ヒロインとわたくしの婚約者の第一王子は愛を育んで卒業式の日にわたくしを断罪する。  でも、ねぇ……?  何故それをわたくしが待たなきゃいけないの? ※細かい描写は一切無いけど一応『R15』指定に。 ◇テンプレ乙女ゲームモノ。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾もあるかも。 ◇なろうにも上げてます。

婚約破棄ですか。ゲームみたいに上手くはいきませんよ?

ゆるり
恋愛
公爵令嬢スカーレットは婚約者を紹介された時に前世を思い出した。そして、この世界が前世での乙女ゲームの世界に似ていることに気付く。シナリオなんて気にせず生きていくことを決めたが、学園にヒロイン気取りの少女が入学してきたことで、スカーレットの運命が変わっていく。全6話予定

皇太子の子を妊娠した悪役令嬢は逃げることにした

葉柚
恋愛
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢のレイチェルは幸せいっぱいに暮らしていました。 でも、妊娠を切っ掛けに前世の記憶がよみがえり、悪役令嬢だということに気づいたレイチェルは皇太子の前から逃げ出すことにしました。 本編完結済みです。時々番外編を追加します。

転生したら攻略対象者の母親(王妃)でした

黒木寿々
恋愛
我儘な公爵令嬢リザベル・フォリス、7歳。弟が産まれたことで前世の記憶を思い出したけど、この世界って前世でハマっていた乙女ゲームの世界!?私の未来って物凄く性悪な王妃様じゃん! しかもゲーム本編が始まる時点ですでに亡くなってるし・・・。 ゲームの中ではことごとく酷いことをしていたみたいだけど、私はそんなことしない! 清く正しい心で、未来の息子(攻略対象者)を愛でまくるぞ!!! *R15は保険です。小説家になろう様でも掲載しています。

【完結】公爵令嬢はただ静かにお茶が飲みたい

珊瑚
恋愛
穏やかな午後の中庭。 美味しいお茶とお菓子を堪能しながら他の令嬢や夫人たちと談笑していたシルヴィア。 そこに乱入してきたのはーー

村娘になった悪役令嬢

枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。 ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。 村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。 ※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります) アルファポリスのみ後日談投稿しております。

処理中です...