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4章 ついに始まる乙女ゲーム
15話 不安定な目覚め
しおりを挟むゆっくりとまぶたを持ち上げる。
闇以外の色に目がチカチカして何度か瞬きをした。
見慣れた天井。自分の部屋のベッドだと言うことに気がつく。わたくしは…。
体を起こそうとすると、妙に軋む身体。
何とか身体を起こそうと四苦八苦していると、コンコンとノックの音が聞こえ返事をする前に誰かが入ってくる。
「失礼します…。」
静かに入って来たのは…
「…オー、リ?」
喉がカラカラで声が出ない。掠れた声で訪ねると、目を丸くする彼の姿。
「え、る…さま…エル様!?」
慌てたように手に持っていた水桶を置いてこちらに駆け寄ってくる。
「っよかった…!起きた…ちゃんと、戻ってきてくれた…!」
「どういう、こと?ケホッケホッ…」
言葉を発しただけで噎せてしまう。
「あっ水!ちょっと待って!起きれる?」
彼にしては珍しく動揺したような動きでピッチャーからコップに水をそそぐ。起きれるか、という問いに否と答えると、たくさんのクッションを背中に入れて起き上がらせてくれた。
「はい、どうぞ。」
オーリが手渡してくれたコップを受け取ろうと腕を伸ばしたはいいが手に力が入らないことに気づく。このままコップを持っても落とすだけだろう。
「力、が…?」
「あ、そうか…寝たきりだったから…。
ごめん、エル様。嫌かもしれないけど…」
そう呟くと、彼は渡そうとしていたコップをそのままわたくしの口元に近づける。
「これで飲める?」
「え、ええ…。」
少し戸惑いながらも大人しくコップに口づける。ゆっくりと一口ずつ飲ませてくれるオーリの優しさに甘えこくりこくりと水を飲み干す。
「だいぶ、よくなったわ。ありがとう。」
「いえっ…。あ、と、とりあえずリュド様達を呼んでくるね!」
何故か言葉を詰まらせたオーリは、顔を隠すように視線をずらすとそのまま部屋を出て行ってしまった。
数分後。バタバタと慌ただしい足音が幾つも聞こえたかと思ったらバン!と勢いよく扉があく。
「エル!!」
一番最初に飛び込んできたのは父様。その後ろにマシュー、イリスくんと続き…。
「イオ!」
何故か魔導院の研究室メンバーまで。
「目が覚めたんだなエル!よかった…!」
涙目の父様が近くまで来てわたくしの手をとる。
「あ、の。状況を説明していただけませんか?あと、さすがに何か羽織るものを…。」
寝起き?のわたくしには父様が涙してまでわたくしの目覚めを喜ぶ理由も、魔導院の人達がここにいる理由も分からない。そもそも彼らはわたくしがイオだとは知らないはずだし、言うつもりもなかった。なのに、知っている風でここにいるのは何故なのか。
それとは別に、寝ていたからかわたくしが今着ているのは薄いネグリジェのみなのが気になった。とても人前に出るような格好じゃない。
「エル様どうぞ…。」
目をそらしながらオーリが肩にかけてくれたのはストール。呼びに行ったついでに持ってきてくれたのだろう。
「ありがとう、オーリ。
…それでこれはどういう状況なのですか?」
オーリにお礼を言ってから再度問うと、苦い顔をした彼が口を開く。
「エル様、倒れたことは覚えてる?」
「たおれ…?」
「俺とクリストフ様と話していた時に。」
「そう…いえば…頭がくらくらして…そこから記憶が…。」
「あれから、一ヶ月たったんだよ。」
「いっ!?え…?」
「一ヶ月、エル様は目を覚まさなかったんだ。俺達がどれだけ心配したか分かる?」
クリスさんの部屋で、話をしていて、何故か涙がとまらなくて、頭がくらくらして…。
そうか、わたくしは倒れたのか…。
そして、一ヶ月も眠り続けていた。
「ご迷惑をおかけしました…。」
すみません、と続けると暫しおちる沈黙。
それを破ったのは、イリスくんだった。
「迷惑どうこうじゃない!つらかったそれを何で俺達に言わない!!なんで、少しでも相談してくれないんだ!俺達がそんなに頼りないか?俺達がどれだけ心配したと思って…っ」
「イリスくん…!落ち着いて!」
掴みかかってくるような勢いで前に出てきた彼をマシューがとめる。
「ごめん、なさい。ごめ、ごめんなさい…うっ…。」
ぽろぽろと、涙がこぼれる。泣きたくなんかないのに、気持ちが落ち着かなくて、まるで幼い子供にもどったように…。
「イリス!まだ不安定なんだから刺激するなって言っただろ!」
それまで黙って後ろにいたカイル達魔導院のメンバーが前に出てきてイリスくんを後ろに追いやる。
「イオさん、失礼しますよ。」
そういってわたくしの手に触れてきたのはカミーユ。
『・・-・ -- ・・- -・- ・---・ -- ・- ・-- --・-・ ・---』
カミーユが人とは違う言語を紡いだ瞬間、ふわりとあたたかい何かが体を巡っていく。ゆったりと気持ちが落ち着いていくのを感じた。
─────────────────
今年はありがとうございました。
来年もよろしくお願いいたします。
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