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第九章 籠の鳥が羽ばたく時

ヴィクトリーヌの正体

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 魔王メイヴィスからの手紙には、ヴィクトリーヌについて次のような事実が書きつづられていた。



 「異世界荒らし・ヴィクトリーヌ」と名乗る女はかつて、現代日本の三十歳前後の独身女性であった。
 死亡後、愛読書であった悪役令嬢物の世界に転生した。

 ……と、本人は思っている。

 その世界は悪役令嬢マリレーヌを主人公とした「悪役令嬢物」の世界である。
 マリレーヌは王太子の婚約者であったが、婚約破棄・追放の後、突然強大な力を手に入れる。その力で無双して逆ハーレムを築き、王太子と浮気相手の男爵令嬢を断罪した。
 ヴィクトリーヌはマリレーヌの取り巻きの侯爵令嬢だった。

 茶色の真っすぐな髪、琥珀色の目にそばかすのある地味な顔立ちでマリレーヌを崇拝していた。
 生前の現代女性もマリレーヌの熱烈なファンであった(現在のヴィクトリーヌの容姿はマリレーヌを模したものである。マリレーヌは金髪ドリルに緑色の目をしている)。

 マリレーヌが婚約破棄された夜、ヴィクトリーヌは悪魔を呼び出し、王太子らに復讐しようとする。
 人生への未練を断ち切れず漂っていた現代女性の魂は、その儀式の最中、物語の中へと引き込まれた。
 悪魔はヴィクトリーヌの魂を喰らい、代わりに現代女性の魂をヴィクトリーヌの肉体に入れた。
 現代女性は無意識のまま、その身体を乗っ取りヴィクトリーヌの記憶と能力を手に入れる。

 ヴィクトリーヌ(憑依ひょうい後)は、儀式の衝撃によって前世の記憶を取り戻したと思い込み、悪魔の誘いに応じて物語世界に干渉し始める。
 シナリオ通りマリレーヌの手助けをし、王太子らが囚われた後、原作では王太子は追放、男爵令嬢は修道院に幽閉されることになった。
 断罪後、さらに生贄いけにえを要求する悪魔を、ヴィクトリーヌ(本体)は次第に恐れるようになり、マリレーヌが悪魔を倒して解決する。

 その結末に不満を感じていたヴィクトリーヌ(憑依ひょうい後)は悪魔にそそのかされ、現代にいた頃からの願い通り、マリレーヌの敵をもっと重く処罰することにしたのであった。
 ヴィクトリーヌ(憑依ひょうい後)と悪魔の企てにより、王太子と男爵令嬢、その味方をした人々は全員処刑される。

 その後も死亡する度に、悪役令嬢の周囲の人物……家族や友人、侍女や女騎士などに憑依しては(ヴィクトリーヌ自身は転生だと思っていた)、悪魔の力で憑依ひょうい対象や破滅させた人々の魂を喰らい、その力を手に奪い取って強大な力を身に着けてきた。

 そのうち悪役令嬢絶対有利に創られている「悪役令嬢物」の世界に飽き、他の世界を荒らし始める。
 悪役令嬢のいない世界で、ヒロインやヒーローを断罪し、依り代を「悪役令嬢」として世界の中心にしようと世界を改変していく。

 そうしてヴィクトリーヌは、「異世界荒らし」の一人として恐れられるようになっていった。



 ヴィクトリーヌの正体について明かした後で、手紙にはこう記されていた。



 ―――今では自称転生者の魂もほとんど悪魔と同化している。
    普通に殺したのみではまた転生して同様の災いが繰り返される。
    聖女と聖剣の力で悪魔を滅ぼさなくてはならない。

    ヴィクトリーヌに取りいている悪魔を滅ぼせば、彼女は無力化するであろう。
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