上 下
84 / 126
第八章 魔王と転移者

楽しいハーレム生活

しおりを挟む
 お茶の時間が終わり、庭から城の中へ入ると、獣人の少女クーが猛スピードで目の前を駆け抜けていった。
 彼女の通った後には、服や髪飾りなどが点々と落ちている。

「あー、またか。エイダさんの悪い病気が始まったね」

 真紀が心得顔で呟く。
 エイダとは、王女付きの侍女の名前である。城の入り口から案内をしてくれたのは、彼女であった。
 部屋の扉が開き、エイダが顔を出す。

「逃げられましたか……。さすが獣人、素早さは随一ずいいちです」

 残念そうに廊下を見渡す彼女の目がエルシーに止まった。
 その目がきらりと光ったような気がした。

「あっ……。やば…………」

 真紀のつぶやきに、どういうことなのかと問いかけようとしたエルシーは、突然腕をつかまれて部屋に引きずり込まれた。

「ふっふっふ……」

 閉めたドアを背後に振りかえり、怪しい笑みを浮かべるエイダ。
 エルシーは不安を感じた。
 まさか、自分の目的に気付いた……にしては、少々緊張感に欠ける気がするのだが。

「別に実害は無いですよ。こうなったら大人しくしておくしかないですね」

 真紀がドアを開け、ルビィも一緒に入って来る。

「えっ?どういうこと?」
「さぁ!お楽しみの時間です!」
「えぇー!?ちょっと、何!?」



「ふむふむ。これも悪くないですね」
「…………」

 うなづくエイダ。
 エルシーの前には、全身を映す大きな鏡があった。

 鏡の中では、薄桃色の少女が、すみれ色の瞳に当惑の色を浮かべてこちらを見ていた。
 今着ているのは、真紀の服に似た上着と、短いスカート。学校の制服らしいのだが、その割には装飾が多く丈が短すぎる。
 ルビィが説明した。

「萌え系作品とかギャルゲのヒロインの服ですね」
「こんなに短い服着たことないんだけど……」

 エルシーは当惑して短いスカートを下へ引っ張る。

「では、こちらはどうですか?」

 返事をする間もなく、すばやく服を着せ替えるエイダ。
 次は、少しスカート丈の長めな制服。前よりもデザインは大人しめできちんとした感じがする。

「お嬢様学校の制服ですね。やはり、そっちも似合ってますよ!」

 楽しそうなエイダ。
 真紀があきれ顔をしつつも興味深そうに見ている。

「そういう格好をしてると、よくあいつが見てるアニメのヒロインみたいだね」
「ふふふ、こっちはどうでしょう?」
「え?こういうのは割と好きだけど……こんなに短くなければ」

 着せてくれる服は可愛いものが多いのだが、全体的に丈が短かったり、体をおおう部分が少なかったりするのが問題だった。
 気が付けば、ルビィも同じような服を着せられている。

「あら?もうすぐ夕食の時間ですね。では、食堂へ行きましょうか!」
「この格好で!?」

 エイダに引きずられ、魔法少女のまま食堂へ向かうエルシーとルビィ。
 真紀も彼女達の後について歩きだす。



 魔法少女の恰好で夕食のテーブルに着く羽目になった。
 エルシーはピンク、ルビィは赤のおそろいの衣装である。
 髪は頭の両側で二つに分けて真紅のリボンで結んである。リボンにはキラキラ光るハート型の飾りがついていた。

「まぁ、素敵ですね」
「……ありがとうございます」

 王女の賛辞に複雑な微笑を浮かべて礼を述べるエルシー。
 他の女の子達は慣れた様子でめてくれたり、何事も無かったように食事に取り掛かったりしている。
 エイダは何事も無かったかのように、模範的もはんてきな侍女らしい態度で給仕を務めていた。

一之かずゆき様から連絡がありました。もうすぐお戻りになるそうです!」

 頬を紅潮させ、嬉しそうな顔でセシリア王女は告げた。

「カズユキ、帰ってくる!?うれしい!!」

 クーが耳をぴこぴこ動かして、満面の笑みで叫ぶ。

「やっと会えるのね!」
「もう長いこと会ってない気がするよ!」

 他の女の子達も口々に喜びを口にする。

「あー、帰ってくるんだ。最近、中々遠出もできないってぼやいてたから、もっとゆっくりしていけばいいのに」

 真紀は何気ない調子で言ったが、嬉しさを隠しきれなかった。

「素直じゃないわね、貴女は」

 アデラインがからかった。真紀は「違うってば」と顔を赤くしながら答える。

(さすがハーレムの主ですね。皆洗脳されてます)
(ここまで好かれるような人には思えないけど)

 エルシーとルビィはこっそり話し合うのだった。

(彼らが戻るまでに退散した方が良さそうですね。明らかに誘導である以上、勇者が来るまで戻りはしないと思いますけど)

「あなたもやっと一之様とお近づきになれるのね。良かったわ!」
「えぇ、楽しみだわ」

 罪の意識を感じつつ、エルシーは答えた。
 予想外に楽しく過ごしていたが、自分は彼らの敵である勇者に会うために来たのだ。
 バートランドに迷惑がかからないように、自分の身も守らなければ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】処刑後転生した悪女は、狼男と山奥でスローライフを満喫するようです。〜皇帝陛下、今更愛に気づいてももう遅い〜

二位関りをん
恋愛
ナターシャは皇太子の妃だったが、数々の悪逆な行為が皇帝と皇太子にバレて火あぶりの刑となった。 処刑後、農民の娘に転生した彼女は山の中をさまよっていると、狼男のリークと出会う。 口数は少ないが親切なリークとのほのぼのスローライフを満喫するナターシャだったが、ナターシャへかつての皇太子で今は皇帝に即位したキムの魔の手が迫り来る… ※表紙はaiartで生成したものを使用しています。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

【書籍化確定、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!

たぬきち25番
恋愛
 気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡ ※マルチエンディングです!! コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m 2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。 楽しんで頂けると幸いです。

どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~

涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!

『愛することはない』と婚約者に言われた私の前に現れた王子様

家紋武範
恋愛
 私、エレナ・ドラードには婚約者がいる。しかし、その婚約者に結婚しても愛することはないと言われてしまう。  そんな私の前に隣国の王子様が現れ、求婚して来るのだった。 ※この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。

処理中です...