65 / 126
第七章 二人の聖女
最愛の王子様 ※アルフレッド視点
しおりを挟む
誰もいない庭園で、王太子アルフレッドはぼんやりと椅子に座っていた。
テーブルの上の紅茶は既に冷めている。
頭上には眩しいほどの青空が広がっている。
珍しく時間の空いた午後、アルフレッドは暇を持て余していた。
昨日までなら、こんな天気の日には、菜々美を誘ってこっそり町まで遊びに行こうと誘うところなのだが―――。
『殿下は素敵な王子様だよ!』
無邪気な菜々美の言葉が脳裏に蘇る。
(王子でなくてもいいとか言って欲しかったが…………)
彼女にわかって欲しかった。
……何もかも理解して欲しいというのは、贅沢なことなのだろうが……。
もちろん、菜々美のことが嫌いになったわけではないが、失望や気まずさや、過剰な要求をしてしまう自分の未熟さ、申し訳なさがつきまとい、会いたくても会えずにいた。
(菜々美も今日は来ないのだろうな―――)
忙しくて会いに行けない時は、彼女の方から積極的に会いに来てくれていたのだが……。
「殿下―――!」
「……菜々美か」
安堵と嬉しさを押し隠して、屈託のない笑顔で駆けて来る黒髪の少女を迎えた。
「今は時間あるの?遊びに行こうよ!」
「悪いが、今は遊びに行く気分じゃない」
「それならここで話でもする?」
「話と言っても……」
「やっぱり王子様が好きなんだ、あたし」
いきなり率直に切り出されて、アルフレッドは戸惑った。
では、好意をもってくれるのも、自分が王子だからか。
苦い思いで考えたが、その思考を断ち切るように菜々美は語る。
「でも、王子様なら誰でもいいってわけじゃない。嫌な奴だったら嫌いになるよ」
「…………」
「殿下はその点理想的な王子様なんだ。それは、今までの努力の結果でしょ?何もしないでここまで成長できたわけじゃないよね。いい王子様でいようと頑張ってる殿下があたしは好きなんだ」
「!」
菜々美の純粋な笑顔にアルフレッドは思わず赤面する。
「じゃ、その努力を止めたら私を嫌いになるのか?」
「いつも頑張ってるんだから、たまにはさぼってもいいと思うよ。また町にお忍びに行きたいなら、いくらでも協力するからさ」
にやっと悪戯っぽく笑って、菜々美は言う。
「それに、止めたくても殿下はきっと止めないと思う」
「…………」
自分には弟も妹もいない。王太子の座を他の者に譲るのは難しい。
姉が一人いるが、既に他国へ嫁いだ身である。王太子の座が不在になっても、即位には反対する者が多いだろう。
違う人生を歩んでみたいというのは、実現不可能な夢であると諦めている。
「殿下ぐらいの年で、将来が決まってる人は皆、そういうことを考えるもんじゃない?パーシヴァル先生も、『誰もが通る道です。いずれ良い国王になられるでしょう』って言ってたよ」
「そんなことを……」
アルフレッドは予想外の言葉に驚く。
厳しい教師であった彼からそのような言葉を聞いた事は無かった。
「だからさ……」
「もし、私が本当は王子ではなかったとしたら、どう思う?偽物の王太子だと皆非難するのではないか?」
菜々美は王太子を真っすぐに見据えて答える。
「そんなの、悪く言う奴の方がおかしいじゃない。今まで王太子として頑張ってきたことに変わりはないんだし、殿下に助けてもらった人だってたくさんいるんだからさ。文句言う奴がいたら、あたしが相手になるよ!」
勇ましく拳を振り上げる菜々美に、アルフレッドは思わず微笑した。
「殿下だって、あたしとエルシーを二人共聖女として認めて大事にしてくれるじゃないの。『一人は偽物だー!!』なんて言わずにさ。偽物か本物かなんてどうでもいい。どれだけのことをするかが大事なんだ」
「あー…………」
嬉しそうに語る菜々美。
その笑顔に眩しさを覚え、これ以上の文句を思いつかなくなる。
アルフレッドは笑い出した。
「貴女といると、悩むことが馬鹿らしくなっていくな」
菜々美は嬉しそうに笑い、 アルフレッドの手を引っ張って誘う。
「じゃ、遊びに行こう!こんな天気の日にじっとしてるのは勿体ないよ!」
二人は手を取り合って庭を後にした。
賑やかな鳥の声が、楽し気に響いていた。
テーブルの上の紅茶は既に冷めている。
頭上には眩しいほどの青空が広がっている。
珍しく時間の空いた午後、アルフレッドは暇を持て余していた。
昨日までなら、こんな天気の日には、菜々美を誘ってこっそり町まで遊びに行こうと誘うところなのだが―――。
『殿下は素敵な王子様だよ!』
無邪気な菜々美の言葉が脳裏に蘇る。
(王子でなくてもいいとか言って欲しかったが…………)
彼女にわかって欲しかった。
……何もかも理解して欲しいというのは、贅沢なことなのだろうが……。
もちろん、菜々美のことが嫌いになったわけではないが、失望や気まずさや、過剰な要求をしてしまう自分の未熟さ、申し訳なさがつきまとい、会いたくても会えずにいた。
(菜々美も今日は来ないのだろうな―――)
忙しくて会いに行けない時は、彼女の方から積極的に会いに来てくれていたのだが……。
「殿下―――!」
「……菜々美か」
安堵と嬉しさを押し隠して、屈託のない笑顔で駆けて来る黒髪の少女を迎えた。
「今は時間あるの?遊びに行こうよ!」
「悪いが、今は遊びに行く気分じゃない」
「それならここで話でもする?」
「話と言っても……」
「やっぱり王子様が好きなんだ、あたし」
いきなり率直に切り出されて、アルフレッドは戸惑った。
では、好意をもってくれるのも、自分が王子だからか。
苦い思いで考えたが、その思考を断ち切るように菜々美は語る。
「でも、王子様なら誰でもいいってわけじゃない。嫌な奴だったら嫌いになるよ」
「…………」
「殿下はその点理想的な王子様なんだ。それは、今までの努力の結果でしょ?何もしないでここまで成長できたわけじゃないよね。いい王子様でいようと頑張ってる殿下があたしは好きなんだ」
「!」
菜々美の純粋な笑顔にアルフレッドは思わず赤面する。
「じゃ、その努力を止めたら私を嫌いになるのか?」
「いつも頑張ってるんだから、たまにはさぼってもいいと思うよ。また町にお忍びに行きたいなら、いくらでも協力するからさ」
にやっと悪戯っぽく笑って、菜々美は言う。
「それに、止めたくても殿下はきっと止めないと思う」
「…………」
自分には弟も妹もいない。王太子の座を他の者に譲るのは難しい。
姉が一人いるが、既に他国へ嫁いだ身である。王太子の座が不在になっても、即位には反対する者が多いだろう。
違う人生を歩んでみたいというのは、実現不可能な夢であると諦めている。
「殿下ぐらいの年で、将来が決まってる人は皆、そういうことを考えるもんじゃない?パーシヴァル先生も、『誰もが通る道です。いずれ良い国王になられるでしょう』って言ってたよ」
「そんなことを……」
アルフレッドは予想外の言葉に驚く。
厳しい教師であった彼からそのような言葉を聞いた事は無かった。
「だからさ……」
「もし、私が本当は王子ではなかったとしたら、どう思う?偽物の王太子だと皆非難するのではないか?」
菜々美は王太子を真っすぐに見据えて答える。
「そんなの、悪く言う奴の方がおかしいじゃない。今まで王太子として頑張ってきたことに変わりはないんだし、殿下に助けてもらった人だってたくさんいるんだからさ。文句言う奴がいたら、あたしが相手になるよ!」
勇ましく拳を振り上げる菜々美に、アルフレッドは思わず微笑した。
「殿下だって、あたしとエルシーを二人共聖女として認めて大事にしてくれるじゃないの。『一人は偽物だー!!』なんて言わずにさ。偽物か本物かなんてどうでもいい。どれだけのことをするかが大事なんだ」
「あー…………」
嬉しそうに語る菜々美。
その笑顔に眩しさを覚え、これ以上の文句を思いつかなくなる。
アルフレッドは笑い出した。
「貴女といると、悩むことが馬鹿らしくなっていくな」
菜々美は嬉しそうに笑い、 アルフレッドの手を引っ張って誘う。
「じゃ、遊びに行こう!こんな天気の日にじっとしてるのは勿体ないよ!」
二人は手を取り合って庭を後にした。
賑やかな鳥の声が、楽し気に響いていた。
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
【完結】処刑後転生した悪女は、狼男と山奥でスローライフを満喫するようです。〜皇帝陛下、今更愛に気づいてももう遅い〜
二位関りをん
恋愛
ナターシャは皇太子の妃だったが、数々の悪逆な行為が皇帝と皇太子にバレて火あぶりの刑となった。
処刑後、農民の娘に転生した彼女は山の中をさまよっていると、狼男のリークと出会う。
口数は少ないが親切なリークとのほのぼのスローライフを満喫するナターシャだったが、ナターシャへかつての皇太子で今は皇帝に即位したキムの魔の手が迫り来る…
※表紙はaiartで生成したものを使用しています。
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
【書籍化確定、完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!
たぬきち25番
恋愛
気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡
※マルチエンディングです!!
コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m
2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。
楽しんで頂けると幸いです。
どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~
涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!
『愛することはない』と婚約者に言われた私の前に現れた王子様
家紋武範
恋愛
私、エレナ・ドラードには婚約者がいる。しかし、その婚約者に結婚しても愛することはないと言われてしまう。
そんな私の前に隣国の王子様が現れ、求婚して来るのだった。
※この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる