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第七章 二人の聖女

最愛の王子様 ※アルフレッド視点

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 誰もいない庭園で、王太子アルフレッドはぼんやりと椅子に座っていた。
 テーブルの上の紅茶は既に冷めている。
 頭上にはまぶしいほどの青空が広がっている。

 珍しく時間の空いた午後、アルフレッドは暇を持て余していた。
 昨日までなら、こんな天気の日には、菜々美を誘ってこっそり町まで遊びに行こうと誘うところなのだが―――。



『殿下は素敵な王子様だよ!』



 無邪気な菜々美の言葉が脳裏に蘇る。

(王子でなくてもいいとか言って欲しかったが…………)

 彼女にわかって欲しかった。
 ……何もかも理解して欲しいというのは、贅沢なことなのだろうが……。

 もちろん、菜々美のことが嫌いになったわけではないが、失望や気まずさや、過剰かじょうな要求をしてしまう自分の未熟さ、申し訳なさがつきまとい、会いたくても会えずにいた。

(菜々美も今日は来ないのだろうな―――)

 忙しくて会いに行けない時は、彼女の方から積極的に会いに来てくれていたのだが……。

「殿下―――!」
「……菜々美か」

 安堵と嬉しさを押し隠して、屈託のない笑顔で駆けて来る黒髪の少女を迎えた。

「今は時間あるの?遊びに行こうよ!」
「悪いが、今は遊びに行く気分じゃない」
「それならここで話でもする?」
「話と言っても……」
「やっぱり王子様が好きなんだ、あたし」

 いきなり率直に切り出されて、アルフレッドは戸惑った。
 では、好意をもってくれるのも、自分が王子だからか。
 苦い思いで考えたが、その思考を断ち切るように菜々美は語る。

「でも、王子様なら誰でもいいってわけじゃない。嫌な奴だったら嫌いになるよ」
「…………」
「殿下はその点理想的な王子様なんだ。それは、今までの努力の結果でしょ?何もしないでここまで成長できたわけじゃないよね。いい王子様でいようと頑張ってる殿下があたしは好きなんだ」
「!」

 菜々美の純粋な笑顔にアルフレッドは思わず赤面する。

「じゃ、その努力を止めたら私を嫌いになるのか?」
「いつも頑張ってるんだから、たまにはさぼってもいいと思うよ。また町にお忍びに行きたいなら、いくらでも協力するからさ」

 にやっと悪戯っぽく笑って、菜々美は言う。

「それに、止めたくても殿下はきっと止めないと思う」
「…………」

 自分には弟も妹もいない。王太子の座を他の者に譲るのは難しい。
 姉が一人いるが、既に他国へ嫁いだ身である。王太子の座が不在になっても、即位には反対する者が多いだろう。
 違う人生を歩んでみたいというのは、実現不可能な夢であると諦めている。

「殿下ぐらいの年で、将来が決まってる人は皆、そういうことを考えるもんじゃない?パーシヴァル先生も、『誰もが通る道です。いずれ良い国王になられるでしょう』って言ってたよ」
「そんなことを……」

 アルフレッドは予想外の言葉に驚く。
 厳しい教師であった彼からそのような言葉を聞いた事は無かった。

「だからさ……」
「もし、私が本当は王子ではなかったとしたら、どう思う?偽物の王太子だと皆非難するのではないか?」

 菜々美は王太子を真っすぐに見据みすえて答える。

「そんなの、悪く言う奴の方がおかしいじゃない。今まで王太子として頑張ってきたことに変わりはないんだし、殿下に助けてもらった人だってたくさんいるんだからさ。文句言う奴がいたら、あたしが相手になるよ!」

 勇ましく拳を振り上げる菜々美に、アルフレッドは思わず微笑した。

「殿下だって、あたしとエルシーを二人共聖女として認めて大事にしてくれるじゃないの。『一人は偽物だー!!』なんて言わずにさ。偽物か本物かなんてどうでもいい。どれだけのことをするかが大事なんだ」
「あー…………」

 嬉しそうに語る菜々美。
 その笑顔に眩しさを覚え、これ以上の文句を思いつかなくなる。
 アルフレッドは笑い出した。

「貴女といると、悩むことが馬鹿らしくなっていくな」

 菜々美は嬉しそうに笑い、 アルフレッドの手を引っ張って誘う。

「じゃ、遊びに行こう!こんな天気の日にじっとしてるのは勿体もったいないよ!」

 二人は手を取り合って庭を後にした。
 賑やかな鳥の声が、楽し気に響いていた。
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