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第七章 二人の聖女

消えた恋の結末

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 セドリックは語る。

 聖女への恋愛感情が突然消え、自分達でも戸惑ったが、王太子を除く四人で相談の結果、勘違いだったということにしようと決めた。突然態度が変われば、聖女も不審に思うだろう。
 自分達の気持ちを迷惑に思っていた以上、王太子との結婚が決まりそうな今、全て無かったことにして、ただの仲間に戻った方が聖女のためだと考えたのだ。

「まさか、王太子殿下まで同じ日に同じようなことを言うとは思わなかったからね」

 セドリックの言葉にアルフレッドは罪悪感を顔に表した。

「……他の者には、聖女は誘拐ゆうかいされたと言ってある」

 アルフレッドの言葉にエルシーは目を見開いた。

誘拐犯ゆうかいはん討伐とうばつされ、聖女は無事救出された。彼女自身には何の落ち度も無い」

 王太子は、エルシーを守るために架空かくう誘拐犯ゆうかいはんを作り上げたのだと、エルシーは理解した。

「森でお会いした時は、貴方のお気持ちも知らず、失礼な振る舞いをしたことをお詫びしなければなりません。貴方達には大変ご迷惑をおかけしました。本当に申し訳ありませんでした」

 エルシーは深く頭を下げた。

「いえ、こちらこそ何のお力にもなれず、申し訳ありません」

 パーシヴァルはいつもにまして真剣な表情で頭を下げた。

「未熟者で申し訳ない。もっと上手い言い方ができていればね。私もまだまだ修行が必要だな」

 伯爵は、珍しく殊勝しゅしょうな表情で謝罪する。

「いやー、えろうすんまへんな。やっぱり正直にしゃべっておくべきだったんや」

 レジナルドも悄然しょうぜんと言う。

「余計な配慮で、一番助けが必要な時に助けてやれなかった。本当にすまなかった」

 チェスターが苦悩を現して謝罪する。

「貴女のために最善の答えを出したつもりが、かえって追い詰めることになってしまった。申し訳なく思う。どう言いつくろおうと、貴女を裏切ったことに変わりはない。心よりおびする」

 苦痛に満ちた声で謝罪する王太子に、エルシーは微笑み掛けた。

「あのまま結婚を申し込まれても、わたくしの方から辞退することになったでしょう。やり直す方がわたくしのためになると思われたのですね」

 アルフレッドはただ、悲し気に微笑んで、彼女の言葉を肯定する。

「正しい事をするのは勇気のいることですわ。人を傷つけることもあるのですもの。ですけれど、殿下はその勇気をお持ちです。お慕いするほどの値打ちのある方ですわ。一時だけでも、お相手になれたことを誇りに思います」
「いや、貴女こそ私には勿体ない淑女だ。もっと良い相手に巡り合うことを願う」
「あー、本当に勿体ないことをしたねー。後悔しない?」

 明るく語り掛ける菜々美に、アルフレッドは慌てた様子を見せる。

「心配はいらない。これで良かったんだ」
(これで良かったのだわ。帰ってきた聖女様に居場所を返すことができたのだもの)

 エルシーは長い間抱いていた罪悪感から解放され、心から安堵する。

「この件については、これ以上語る必要はないだろう。聖女は無事に戻り、皆と和解することができたのだから」

 アルフレッドがきっぱりと宣言し、聖女の逃亡劇は終わった。
 しかし、エルシーはまだ言わなくてはならないことがあった。

「聖女様にも、今までお立場を奪うようなことをして申し訳ありません」
「あたしのことは別にいいよ。大したこともしてないのに、救世主扱いされてこっちこそ申し訳ないと思ってたんだからさ」

 菜々美は手を振って、きまり悪そうに答える。

「それに、王太子殿下のことは本当にいいの?こうして仲直りもできたんだからさ、あたしに遠慮しなくてもいいんじゃない?」

 菜々美の黒い瞳がエルシーを見つめる。
 アルフレッドが菜々美を切ない表情で見ていた。
 それを見ても、もはや心が痛むことがないのにエルシーは気づいた。

「わたくしにとっても過去の事です。殿下が誰と恋をしようと、もう辛くなる事はありません。聖女様こそ、わたくしに遠慮しないでご自分の幸せを考えてください」

 微笑むエルシーに戸惑ったように顔を赤らめて菜々美は答えた。

「え!?うん、まぁ、憧れの王子様に会えたー!って舞い上がってただけで、まだ恋愛と言えるような段階じゃないんだけどさ」
「はいはい、これからですね。攻略アドバイスが必要なら質問してください」

 ルビィが澄まして言う。

「別にいいよ、攻略見ると楽しみがなくなるしさ。うまくいくかどうかわからないから人生は面白いんでしょ?」

 菜々美は楽し気に言う。

「エルシーもあたしには敬語使わないで普通に話してよ。あたしの方が後輩だしね!」
「ええ、聖女の役目をお願いするわ。世界を救う仕事はまだ続きそうですもの。私にも別の使命があるから、本物の聖女様が必要よ」
「うーん……。あたしが本物だと言っていいのかな?」

 菜々美は自信なさげに呟いた。
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