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第五章 ヒロイン不足は深刻です
ヒロインVS悪役令嬢
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「ぶっ!?」
ルビィが噴き出した。
エルシーも絶句して目の前の光景に釘付けになった。
そこにいたのは高価なドレスに身を包んだ釣り目美人……の集団だった。
大抵金髪又は銀髪のドリル、中には黒髪や縦ロール、ウェーブヘアの令嬢も混ざっているが、きつい顔立ちで高飛車な態度なのは皆全く同じである。
「悪役令嬢が何でこんなにいるんですか」
気の抜けた顔でルビィが呟く。
手前の令嬢が腕組みをしたまま得意げに答え、他の令嬢達もそれに唱和した。
「当たり前でしょう?どれだけ『悪役令嬢物』があると思ってるの!」
「普通一つの作品にヒロインは一人。悪役令嬢の方は複数いるものも多いわ」
「だから、悪役令嬢の方がヒロインより圧倒的に多いのですわ。おわかり?」
「お馬鹿なヒロインちゃんには難しかったかしらぁ?」
「「「おほほほほほほ!!!!!」」」
悪役令嬢の大群が一斉に高笑いする様は壮観だった。
小鳥の群れが翼を羽ばたかせて逃げていく。
「悪役令嬢増やし過ぎですね」
「そう、それがわたくし達の悩みなの」
ルビィの言葉に悪役令嬢の一人が前に進み出た。
「悪役令嬢の悩み……それはヒロイン不足!!!」
バーンと効果音の入りそうな勢いで、エルシーに指を突き付け悪役令嬢は語る。
「わたくし達は悪役令嬢に憧れて念願の転生を果たした者。悪役令嬢の使命……それは、ヒロインと馬鹿男を『ざまぁ』すること!」
「だけど、ヒロイン一人に悪役令嬢数人の作品の場合…………」
「ヒロインが逆ハーやってくれないと、ざまぁできない令嬢が出てくるのよ!わたくし達がそうですわ!」
キーッとハンカチを噛んで悔しがる悪役令嬢。
「わたくしの所はヒロインが逃げましたわ!婚約破棄さえしてくれれば、どこへでも追放して差し上げますのに!」
「あの女、『愛人でいい』なんてぬけぬけと!『愛人の方が楽だしぃ~。王妃のお仕事頑張ってくださいねぇ~』って、どこまで馬鹿なのよ!!」
「なぜメインヒーローを避けるのよ!?他の男には婚約者がいないからって、そっちを選ぶなんて!!」
騒ぐ悪役令嬢達を見てエルシーは冷静に一言。
「良かったじゃない」
前世の記憶を取り戻した悪役令嬢の目標は、多くの場合、婚約破棄されないこと。婚約破棄が避けられない場合はその後の破滅回避である。
婚約破棄されないのは、悪役令嬢にとって幸せな結末のはずだが……。
「良くないわよ!ヒロインと婚約者ざまぁを楽しみにしてきたのに!」
「悪役令嬢に生まれてざまぁできないなんて!婚約破棄できないなんて!」
天を仰いで嘆く悪役令嬢達をあきれ顔で見つめるエルシーとルビィ。
「いちいち大げさね」
キッと振り返った令嬢が二人を睨む。
「悲劇どころじゃないのよ!最悪の不幸が待ってるの!」
「婚約破棄されないのに、どうして不幸になるの」
エルシーはとりあえず聞いてみる。
「悪役令嬢の婚約者といったら、浮気性の馬鹿男に決まってるでしょう!」
怒りの形相もすさまじく悪役令嬢は叫び、へらへらしている婚約者の間抜け面を指差す。
「あんなのと結婚したら終わりじゃない!日本と違って離婚できないし!」
「きっと愛人を作るに決まってるわ!結婚する前に浮気してくれれば、婚約破棄でやり直せるのに!」
「それに馬鹿だからつまらない陰謀に引っかかって破滅するわよ、きっと!」
シルクのハンカチを水浸しにする勢いでしくしくと滝のような涙を流す金髪ドリル。
「結婚して巻き添えを食らうのは嫌!駄目男に引っかかって苦労するのはもう嫌!」
「過去に何があったの」
エルシーの疑問をよそに嘆く悪役令嬢の群れ。
「前世のトラウマでしょう」
ルビィが答える。
「…………でもいいわ。こうしてチャンスが来たのですもの」
ニヤリと不気味な笑みを浮かべ、ハンカチから顔をのぞかせる金髪ドリル。
「ヒロインに会ったからには、わたくし達の無念、晴らさせしてもらうわよ」
ざっとエルシーを取り囲む悪役令嬢達。
エルシーとルビィの顔に緊張が走る。
「悪役令嬢の守護神様が約束してくださったわ。見事婚約破棄に成功すれば、この世界の主人公として逆ハーも無双も思いのままだと」
「『異世界荒らし』の差し金ですか、やはり」
ルビィの呟きに、悪役令嬢は含み笑いをして告げた。
「手始めに……百人同時攻略してくださいませんこと?」
「ええっ!?」
「さすがに私でも、百人同時はやったことないですねー」
あまりの要求に驚愕するエルシーとルビィに、悪役令嬢は、ぐいと首根っこを掴んで能天気な婚約者を突き出す。
「ほら、貴女の大好きなイケメン(笑)よ。何故攻略しないの?」
「人のものはいらないわ」
エルシーはきっぱりと言い捨てた。
悪役令嬢の婚約者らしきイケメン(笑)は(首を掴まれたまま)気障な笑みを浮かべて言い放つ。
「私は誰のものでもない!でも、君のものならなってもいいかな」
金髪ドリルは婚約者の首根っこを掴んだまま、ドリルを揺らして高飛車に笑う。
「ただの『萌えないゴミ』ですけど、お花畑なヒロインちゃんにはお似合いじゃないかしら?」
「……乙女ゲームの攻略対象って、女性たちの憧れの存在じゃないの?」
エルシーは当惑してルビィに尋ねた。
こんな男と恋愛して何が楽しいのか。
「悪役令嬢物に出て来る『乙女ゲーム』は悪役令嬢のために創られたものです。だから、現実の乙女ゲームとは全く違う物になってるんです。ざまぁ対象のイケメン(笑)など、『攻略対象』という設定のザコでしかありません」
放置されていた他の悪役令嬢達が口々にわめき始める。
「婚約破棄はまだ?早くしてくださらないこと!?」
「後がつかえてるのよ!まだまだ悪役令嬢は沢山いるんですからね!」
背後の声に応え、金髪ドリルが高らかに告げる。
「順番待ちをしてくださる方々のためにも、まずはわたくしが最高の『ざまぁ』を……」
額に青い石の輝く白い鳥が羽ばたきと共に出現した。
エルシーが鳥の背に乗ったと同時に、彼女ごと鳥は姿を消す。
ルビィもその場から消えていた。
ざわめく悪役令嬢達を上空から見下ろし、エルシーは町から飛び去った。
森の家にたどり着くと、エルシーは家の扉を閉めて吐息を吐く。
「もう外に出られないわ」
「敵が多すぎます。幸いチート持ちはいませんでしたが、絡まれると面倒です。しばらく隠れて生活するしかないでしょう」
「『顔を見せない方がいい』って、こういうことだったのかしら?」
元盗賊団首領、チェスター。彼は現在、王太子の元で情報収集等の活動をしているが、悪役令嬢とその婚約者が溢れ返るような現象を予測していたのだろうか?
「悪役令嬢大量発生を予期していたとは思えませんね。元々、敵は彼らだけではないでしょう。追放だけでは飽き足らず、更に危害を加えようとする奴らがいるに違いありません」
「ここにいて大丈夫かしら」
先程の事件によって、自分達の居場所が敵側にも知られてしまうのではないか。
エルシーは不安になってきた。
ルビィは考えた。
「『異世界荒らし』の『乙女ゲーム』世界への影響力が弱いので、まだチート能力者の召喚はできないようですね。この家は普通の人間には見つけられないので、今の所は心配ありません。でも、奴の力が強くなって、この世界に姿を現すようになれば……。いえ、そうなる前に解決しなければなりません」
「早く前の聖女様が帰ってくればいいのだけど」
「もうすぐ戻ってくると女神様が仰ってます。ですから、焦らずに待ちましょう」
エルシーは決意を秘めた眼差しで語る。
「聖女様が帰ってきたら、ここを出て会いに行くわ」
ルビィは頷いた。
「危険は伴いますが、そうするしかありません。それまでに英気を養っておきましょう」
ぽつ、ぽつ、と雨が降り始め、小さな家は重苦しい霧の中へ沈んでいく。
エルシーが眠り込んでしまった後も、ルビィはじっと一人、暗闇の中で考え込んでいた。
「……なんとかしなければ」
呟くと、バスケットの中の寝床に潜り込む。
誰も動くものはいなくなり、家は静寂に包まれた。
ルビィが噴き出した。
エルシーも絶句して目の前の光景に釘付けになった。
そこにいたのは高価なドレスに身を包んだ釣り目美人……の集団だった。
大抵金髪又は銀髪のドリル、中には黒髪や縦ロール、ウェーブヘアの令嬢も混ざっているが、きつい顔立ちで高飛車な態度なのは皆全く同じである。
「悪役令嬢が何でこんなにいるんですか」
気の抜けた顔でルビィが呟く。
手前の令嬢が腕組みをしたまま得意げに答え、他の令嬢達もそれに唱和した。
「当たり前でしょう?どれだけ『悪役令嬢物』があると思ってるの!」
「普通一つの作品にヒロインは一人。悪役令嬢の方は複数いるものも多いわ」
「だから、悪役令嬢の方がヒロインより圧倒的に多いのですわ。おわかり?」
「お馬鹿なヒロインちゃんには難しかったかしらぁ?」
「「「おほほほほほほ!!!!!」」」
悪役令嬢の大群が一斉に高笑いする様は壮観だった。
小鳥の群れが翼を羽ばたかせて逃げていく。
「悪役令嬢増やし過ぎですね」
「そう、それがわたくし達の悩みなの」
ルビィの言葉に悪役令嬢の一人が前に進み出た。
「悪役令嬢の悩み……それはヒロイン不足!!!」
バーンと効果音の入りそうな勢いで、エルシーに指を突き付け悪役令嬢は語る。
「わたくし達は悪役令嬢に憧れて念願の転生を果たした者。悪役令嬢の使命……それは、ヒロインと馬鹿男を『ざまぁ』すること!」
「だけど、ヒロイン一人に悪役令嬢数人の作品の場合…………」
「ヒロインが逆ハーやってくれないと、ざまぁできない令嬢が出てくるのよ!わたくし達がそうですわ!」
キーッとハンカチを噛んで悔しがる悪役令嬢。
「わたくしの所はヒロインが逃げましたわ!婚約破棄さえしてくれれば、どこへでも追放して差し上げますのに!」
「あの女、『愛人でいい』なんてぬけぬけと!『愛人の方が楽だしぃ~。王妃のお仕事頑張ってくださいねぇ~』って、どこまで馬鹿なのよ!!」
「なぜメインヒーローを避けるのよ!?他の男には婚約者がいないからって、そっちを選ぶなんて!!」
騒ぐ悪役令嬢達を見てエルシーは冷静に一言。
「良かったじゃない」
前世の記憶を取り戻した悪役令嬢の目標は、多くの場合、婚約破棄されないこと。婚約破棄が避けられない場合はその後の破滅回避である。
婚約破棄されないのは、悪役令嬢にとって幸せな結末のはずだが……。
「良くないわよ!ヒロインと婚約者ざまぁを楽しみにしてきたのに!」
「悪役令嬢に生まれてざまぁできないなんて!婚約破棄できないなんて!」
天を仰いで嘆く悪役令嬢達をあきれ顔で見つめるエルシーとルビィ。
「いちいち大げさね」
キッと振り返った令嬢が二人を睨む。
「悲劇どころじゃないのよ!最悪の不幸が待ってるの!」
「婚約破棄されないのに、どうして不幸になるの」
エルシーはとりあえず聞いてみる。
「悪役令嬢の婚約者といったら、浮気性の馬鹿男に決まってるでしょう!」
怒りの形相もすさまじく悪役令嬢は叫び、へらへらしている婚約者の間抜け面を指差す。
「あんなのと結婚したら終わりじゃない!日本と違って離婚できないし!」
「きっと愛人を作るに決まってるわ!結婚する前に浮気してくれれば、婚約破棄でやり直せるのに!」
「それに馬鹿だからつまらない陰謀に引っかかって破滅するわよ、きっと!」
シルクのハンカチを水浸しにする勢いでしくしくと滝のような涙を流す金髪ドリル。
「結婚して巻き添えを食らうのは嫌!駄目男に引っかかって苦労するのはもう嫌!」
「過去に何があったの」
エルシーの疑問をよそに嘆く悪役令嬢の群れ。
「前世のトラウマでしょう」
ルビィが答える。
「…………でもいいわ。こうしてチャンスが来たのですもの」
ニヤリと不気味な笑みを浮かべ、ハンカチから顔をのぞかせる金髪ドリル。
「ヒロインに会ったからには、わたくし達の無念、晴らさせしてもらうわよ」
ざっとエルシーを取り囲む悪役令嬢達。
エルシーとルビィの顔に緊張が走る。
「悪役令嬢の守護神様が約束してくださったわ。見事婚約破棄に成功すれば、この世界の主人公として逆ハーも無双も思いのままだと」
「『異世界荒らし』の差し金ですか、やはり」
ルビィの呟きに、悪役令嬢は含み笑いをして告げた。
「手始めに……百人同時攻略してくださいませんこと?」
「ええっ!?」
「さすがに私でも、百人同時はやったことないですねー」
あまりの要求に驚愕するエルシーとルビィに、悪役令嬢は、ぐいと首根っこを掴んで能天気な婚約者を突き出す。
「ほら、貴女の大好きなイケメン(笑)よ。何故攻略しないの?」
「人のものはいらないわ」
エルシーはきっぱりと言い捨てた。
悪役令嬢の婚約者らしきイケメン(笑)は(首を掴まれたまま)気障な笑みを浮かべて言い放つ。
「私は誰のものでもない!でも、君のものならなってもいいかな」
金髪ドリルは婚約者の首根っこを掴んだまま、ドリルを揺らして高飛車に笑う。
「ただの『萌えないゴミ』ですけど、お花畑なヒロインちゃんにはお似合いじゃないかしら?」
「……乙女ゲームの攻略対象って、女性たちの憧れの存在じゃないの?」
エルシーは当惑してルビィに尋ねた。
こんな男と恋愛して何が楽しいのか。
「悪役令嬢物に出て来る『乙女ゲーム』は悪役令嬢のために創られたものです。だから、現実の乙女ゲームとは全く違う物になってるんです。ざまぁ対象のイケメン(笑)など、『攻略対象』という設定のザコでしかありません」
放置されていた他の悪役令嬢達が口々にわめき始める。
「婚約破棄はまだ?早くしてくださらないこと!?」
「後がつかえてるのよ!まだまだ悪役令嬢は沢山いるんですからね!」
背後の声に応え、金髪ドリルが高らかに告げる。
「順番待ちをしてくださる方々のためにも、まずはわたくしが最高の『ざまぁ』を……」
額に青い石の輝く白い鳥が羽ばたきと共に出現した。
エルシーが鳥の背に乗ったと同時に、彼女ごと鳥は姿を消す。
ルビィもその場から消えていた。
ざわめく悪役令嬢達を上空から見下ろし、エルシーは町から飛び去った。
森の家にたどり着くと、エルシーは家の扉を閉めて吐息を吐く。
「もう外に出られないわ」
「敵が多すぎます。幸いチート持ちはいませんでしたが、絡まれると面倒です。しばらく隠れて生活するしかないでしょう」
「『顔を見せない方がいい』って、こういうことだったのかしら?」
元盗賊団首領、チェスター。彼は現在、王太子の元で情報収集等の活動をしているが、悪役令嬢とその婚約者が溢れ返るような現象を予測していたのだろうか?
「悪役令嬢大量発生を予期していたとは思えませんね。元々、敵は彼らだけではないでしょう。追放だけでは飽き足らず、更に危害を加えようとする奴らがいるに違いありません」
「ここにいて大丈夫かしら」
先程の事件によって、自分達の居場所が敵側にも知られてしまうのではないか。
エルシーは不安になってきた。
ルビィは考えた。
「『異世界荒らし』の『乙女ゲーム』世界への影響力が弱いので、まだチート能力者の召喚はできないようですね。この家は普通の人間には見つけられないので、今の所は心配ありません。でも、奴の力が強くなって、この世界に姿を現すようになれば……。いえ、そうなる前に解決しなければなりません」
「早く前の聖女様が帰ってくればいいのだけど」
「もうすぐ戻ってくると女神様が仰ってます。ですから、焦らずに待ちましょう」
エルシーは決意を秘めた眼差しで語る。
「聖女様が帰ってきたら、ここを出て会いに行くわ」
ルビィは頷いた。
「危険は伴いますが、そうするしかありません。それまでに英気を養っておきましょう」
ぽつ、ぽつ、と雨が降り始め、小さな家は重苦しい霧の中へ沈んでいく。
エルシーが眠り込んでしまった後も、ルビィはじっと一人、暗闇の中で考え込んでいた。
「……なんとかしなければ」
呟くと、バスケットの中の寝床に潜り込む。
誰も動くものはいなくなり、家は静寂に包まれた。
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