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第一章 逆ハーは終了しました
魔女の家
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町で買い物を終えたナナミは、再び森の前に立っていた。
「ここでしたね」
「そう、『死霊の森』」
ゲームに登場する、重要イベントの発生する場所。
ただし、今回はイベント未発生のため、誰もその存在を知らないまま放置されていた。
森の中はひんやりとして薄暗く、「魔女が住んでいる」と言われていてもおかしくない雰囲気だった。
実際には、ずっと前に魔女は世を去り、生きている人間は誰も住んでいないが、今だに町の人は誰もこの森に近づかない。
「幽霊が出る」「怪物がうろついている」「魔女の呪いが残っている」など、怪しげな噂が後を絶たないのである。
白い煙がゆらゆらと立ち上ったかっと思うと、バッと布を広げたように大きく広がって、ギラギラ光る眼がこちらを凝視する。
「オォ……オマエモ我ラノ仲間ニ……ギャーッ!!!」
強い光を浴びて悲鳴を上げながら亡霊は消えた。
低級霊ぐらい、聖女の力で容易に撃退できる。
ゆらゆらと漂う影が、いくつも薄暗い木々の間にちらちらのぞいているが、こちらに来ようとはしなかった。
「ついでにこの辺りを浄化しておきましょうか」
この「死霊の森」には、周囲の土地から亡者を引き寄せる力がある。
そのため、いくら祓っても、どんどん新しい霊が現れ、完全に浄化することはできないのである。
森に入った亡霊はそのうち浄化されて魂が天へ上るので、森からあふれ出た不死者が周辺住民に襲い掛かることはない。
一度森の中に入った不死者は外には出られない。周りの土地からは不死者が消え、森に入らなければ襲われることはないので、付近の住人にとってはかえって安全なのである。
だが、ここは森の中である。すぐ外に亡霊がいて、窓をのぞき込んだら目が合った、という事態は避けたい。
ナナミは住処の周囲に魔物除けの結界を張っておくことにした。過去に魔女の張った結界はかなり効果が弱くなっている。
森の中を進んでいくと、木々の間から古びた家が見えてきた。
かつて国王に仕えた魔女が、宮廷を退いた後、晩年を過ごした家。
人付き合いを嫌い、一人で生活していたが、時折奇妙な客をもてなすことがあったという。
異世界から迷い込んだ人間。人ならぬ異界の生物。辺りを徘徊する死霊達の中にも、魔女の客となったものがいるという。
蔦の絡まる木造の、住み心地の良さそうな家。
広い庭があり、家の裏手には畑もあった。所々苔むした石碑など、用途のわからないものがある。魔女の墓もあった。
庭から花を摘んできて、墓に供えるとナナミは祈りを捧げた。かちりと小さな音がして、どこからともなく鍵が転がり落ちた。飾り気のない黒い鍵。魔女の家の鍵だ。聖女の訪れを予期して魔女が用意したものである。
ナナミは鍵を拾い上げると、ルビィと頷きあった。
鍵を差し込むと、扉はすんなりと開いた。
家は、一人で住むには十分な広さだった。
台所と食堂と風呂場や洗濯部屋、食料を保存するのに適した広い地下室もある。
その他にも一階には客間と広いホールがある。人を呼んでパーティーでもできそうな広さだが、魔女は普段魔法の実験等に使っていたらしい。隅に焦げた跡が残ってた。
二階には書斎と魔女の部屋、客用の寝室が二つあった。屋根裏部屋に通じる梯子もある。
書斎の本棚は一部扉が閉められ、開かないものがあった。
「中は魔法書ですね。魔法で封印してあります。私達には関係ないですね」
ルビィが鑑定した。
魔術師のレジナルドがいれば興味津々で本棚を漁るのだろうとナナミは考えた。
そして、鍵と魔法で固く封印された部屋。この中には貴重な魔法の武器や道具類がしまわれている。鍵は王宮の奥に眠っていた。
「イベント無視したから、閉じたままですね」
ルビィが残念そうに呟く。
この中の道具が使えたら助けになるだろうが、今は仕方ない。
魔女の私室は、上品な女性らしい調度が備えられて居心地良く整えられていた。
ナナミはこの部屋を自分の部屋として使うことに決めた。
家の中は、長い間放置されていたと思えないほど、清々しい空気に満ちていて、快適だった。
くるくると箒が床を掃き清めていく。窓を小さな布が磨いていく。
「この道具はまだ元気なのね」
「掃除の手間が省けます。他にも色々面白そうな物がありそうですね」
庭に、井戸と水汲み用の桶を見つけた。
桶は現役で働いてくれている。室内の水がめや樽の水が少なくなると、ひとりでに動いて水を汲んできてくれる。
物置小屋には薪がいっぱいに積んであり、持ち出した分の次に見た時には補充される仕組みである。
ナナミは力仕事が苦手なので、これはありがたかった。
料理は自分でしなければいけないが、ナナミは料理をするのは苦にならなかった。
荷物を片付けてお茶を淹れると、安堵の溜息が出た。
ゆっくりとくつろぐと、聖女と妖精は今後のことを話し合った。
「しばらく、ここに隠れることにしましょう」
今頃、王宮では大騒ぎになっているだろうか……。
王太子やお世話になった人々のことを思うと胸が痛んだが、今はゆっくり休むことにしよう。
そう決めて、ナナミはベッドに潜り込んだ。
傍らのバスケットの中には、柔らかい布にくるまってルビィが眠っていた。
窓の外には、明るい月。
取りあえずは、安全な隠れ家を手に入れたことに感謝して、ナナミは眠りについた。
「ここでしたね」
「そう、『死霊の森』」
ゲームに登場する、重要イベントの発生する場所。
ただし、今回はイベント未発生のため、誰もその存在を知らないまま放置されていた。
森の中はひんやりとして薄暗く、「魔女が住んでいる」と言われていてもおかしくない雰囲気だった。
実際には、ずっと前に魔女は世を去り、生きている人間は誰も住んでいないが、今だに町の人は誰もこの森に近づかない。
「幽霊が出る」「怪物がうろついている」「魔女の呪いが残っている」など、怪しげな噂が後を絶たないのである。
白い煙がゆらゆらと立ち上ったかっと思うと、バッと布を広げたように大きく広がって、ギラギラ光る眼がこちらを凝視する。
「オォ……オマエモ我ラノ仲間ニ……ギャーッ!!!」
強い光を浴びて悲鳴を上げながら亡霊は消えた。
低級霊ぐらい、聖女の力で容易に撃退できる。
ゆらゆらと漂う影が、いくつも薄暗い木々の間にちらちらのぞいているが、こちらに来ようとはしなかった。
「ついでにこの辺りを浄化しておきましょうか」
この「死霊の森」には、周囲の土地から亡者を引き寄せる力がある。
そのため、いくら祓っても、どんどん新しい霊が現れ、完全に浄化することはできないのである。
森に入った亡霊はそのうち浄化されて魂が天へ上るので、森からあふれ出た不死者が周辺住民に襲い掛かることはない。
一度森の中に入った不死者は外には出られない。周りの土地からは不死者が消え、森に入らなければ襲われることはないので、付近の住人にとってはかえって安全なのである。
だが、ここは森の中である。すぐ外に亡霊がいて、窓をのぞき込んだら目が合った、という事態は避けたい。
ナナミは住処の周囲に魔物除けの結界を張っておくことにした。過去に魔女の張った結界はかなり効果が弱くなっている。
森の中を進んでいくと、木々の間から古びた家が見えてきた。
かつて国王に仕えた魔女が、宮廷を退いた後、晩年を過ごした家。
人付き合いを嫌い、一人で生活していたが、時折奇妙な客をもてなすことがあったという。
異世界から迷い込んだ人間。人ならぬ異界の生物。辺りを徘徊する死霊達の中にも、魔女の客となったものがいるという。
蔦の絡まる木造の、住み心地の良さそうな家。
広い庭があり、家の裏手には畑もあった。所々苔むした石碑など、用途のわからないものがある。魔女の墓もあった。
庭から花を摘んできて、墓に供えるとナナミは祈りを捧げた。かちりと小さな音がして、どこからともなく鍵が転がり落ちた。飾り気のない黒い鍵。魔女の家の鍵だ。聖女の訪れを予期して魔女が用意したものである。
ナナミは鍵を拾い上げると、ルビィと頷きあった。
鍵を差し込むと、扉はすんなりと開いた。
家は、一人で住むには十分な広さだった。
台所と食堂と風呂場や洗濯部屋、食料を保存するのに適した広い地下室もある。
その他にも一階には客間と広いホールがある。人を呼んでパーティーでもできそうな広さだが、魔女は普段魔法の実験等に使っていたらしい。隅に焦げた跡が残ってた。
二階には書斎と魔女の部屋、客用の寝室が二つあった。屋根裏部屋に通じる梯子もある。
書斎の本棚は一部扉が閉められ、開かないものがあった。
「中は魔法書ですね。魔法で封印してあります。私達には関係ないですね」
ルビィが鑑定した。
魔術師のレジナルドがいれば興味津々で本棚を漁るのだろうとナナミは考えた。
そして、鍵と魔法で固く封印された部屋。この中には貴重な魔法の武器や道具類がしまわれている。鍵は王宮の奥に眠っていた。
「イベント無視したから、閉じたままですね」
ルビィが残念そうに呟く。
この中の道具が使えたら助けになるだろうが、今は仕方ない。
魔女の私室は、上品な女性らしい調度が備えられて居心地良く整えられていた。
ナナミはこの部屋を自分の部屋として使うことに決めた。
家の中は、長い間放置されていたと思えないほど、清々しい空気に満ちていて、快適だった。
くるくると箒が床を掃き清めていく。窓を小さな布が磨いていく。
「この道具はまだ元気なのね」
「掃除の手間が省けます。他にも色々面白そうな物がありそうですね」
庭に、井戸と水汲み用の桶を見つけた。
桶は現役で働いてくれている。室内の水がめや樽の水が少なくなると、ひとりでに動いて水を汲んできてくれる。
物置小屋には薪がいっぱいに積んであり、持ち出した分の次に見た時には補充される仕組みである。
ナナミは力仕事が苦手なので、これはありがたかった。
料理は自分でしなければいけないが、ナナミは料理をするのは苦にならなかった。
荷物を片付けてお茶を淹れると、安堵の溜息が出た。
ゆっくりとくつろぐと、聖女と妖精は今後のことを話し合った。
「しばらく、ここに隠れることにしましょう」
今頃、王宮では大騒ぎになっているだろうか……。
王太子やお世話になった人々のことを思うと胸が痛んだが、今はゆっくり休むことにしよう。
そう決めて、ナナミはベッドに潜り込んだ。
傍らのバスケットの中には、柔らかい布にくるまってルビィが眠っていた。
窓の外には、明るい月。
取りあえずは、安全な隠れ家を手に入れたことに感謝して、ナナミは眠りについた。
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