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第一章 逆ハーは終了しました
変身しましょう
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青く輝く広い空を高く上り、風を切って進む。
いつもなら、ナナミはこの小旅行を楽しむ所だが、今はできるかぎり速度を上げて前へ進んでゆく。
ルビィが突然ナナミに言った。
「もうすぐ国境ですよ」
「そこまで来たの?できるだけ遠くに逃げたいけど、聖女は国の外には出られないのよね」
「この辺りにいい隠れ場所がありますから、しばらく大人しくしていましょう」
ルビィの忠告に従い、聖女が一言声を掛けると、鳥はゆっくりと下降する。
森の手前で降りると、鳥は空中に溶け込むように消えた。
目の前には、びっしりと木の生えた森がある。
明るい晴天の元であってもなお底知れぬ闇を抱えているような、暗い木々。
「とりあえず近くの町へ行きますか?この辺りの人は聖女の顔を知らないでしょう」
「待って、人前に出る前に……」
ナナミは鞄を開け、中から一本の瓶を取り出した。
「これを使いましょう」
「あっ!それはいいですね!」
凝った装飾の施された小さな瓶には、透明な液体が入っていた。
宮廷魔術師レジナルドが作った、姿を変える薬。
護身用に与えられたものだ。変身を解く薬もある。
「一回分しかないから、よく考えないと」
ナナミは瓶を眺めつつ、思案した。どんな姿にするか。
「元の外見と似ていない方がいいわね」
「と言うと、スライムとか野菜とか」
「…………」
「冗談ですよ」
いくらなんでも、人間をやめる気はなかった。
「では、金髪ドリルに派手な顔のナイスバディはどうですか?」
「高笑いが似合いそうな姿ね」
黒髪ストレートに地味顔、起伏の少ない体型の聖女とは、確かに対照的だが……。
「まぁ、面白味は無いけど、ごく普通の村娘にでも化けるのが無難じゃないですか?」
「そうなんだけど…………」
ナナミは瓶を見つめ、決断した。
小さな田舎町を、一人の美しい少女が歩いていた。
癖の無い赤みがかった黄金の髪は太陽の光を受けてキラキラ輝き、鮮やかな緑の瞳は好奇心に満ちて辺りを見回していた。
小さな妖精は姿を消したまま、エルシーの傍を飛んでいる。
ルビィはエルシーの心の中に語り掛けた。
二人は声に出さなくても会話することができるのだ。
(美人になりたい誘惑には勝てませんでしたか)
(仕方ないでしょ……薬は一つしかないし、長い間変身したままで暮らすことになりそうだもの)
身の安全を考えると、元に戻ることは当分できそうにない。気に入らない姿で過ごすのは苦痛になる。
(その外見は『聖乙女1』ですか)
(そうなの?)
「聖乙女1」、「聖なる乙女は愛を歌う」のヒロインの姿。
過去の聖女の中でも特に有名な人物で、ナナミもよく話に聞いていた。
旧王国の王女であり、当時「姫巫女」と呼ばれていた女神の申し子。
国が滅びた後も、彼女の偉業は書物や歌として残され、芝居でも人気の演目だ。
ゲームでは、「姫巫女」候補者として選ばれた少女が、修行に励んで女神に選ばれ、いくつもの難題を解決していく。
「乙女ゲーム」なので、彼女を支える男性との恋愛も描かれる。
(素敵な殿方が何人も周りにいたけど、誰と一緒になったのかわからないままだわ)
(誰か一人を選ぶと、他の攻略対象のファンが不満を持ちますからね。逆ハーエンドもありませんから、その辺りはわからないままでいいんですよ)
ルビィが訳知り顔に解説した。
(とにかく今は逃亡中です。あまり目立つ行動はしない方がいいですよ)
こちらをちらちら見ている男達を見てルビィが言った。
(そうね。色々詮索されても困るし、しばらくは顔を隠しましょう)
ナナミは古着屋に寄り、全身をすっぽり覆うマントを買った。人前ではこれで身を隠すことにする。
いつもなら、ナナミはこの小旅行を楽しむ所だが、今はできるかぎり速度を上げて前へ進んでゆく。
ルビィが突然ナナミに言った。
「もうすぐ国境ですよ」
「そこまで来たの?できるだけ遠くに逃げたいけど、聖女は国の外には出られないのよね」
「この辺りにいい隠れ場所がありますから、しばらく大人しくしていましょう」
ルビィの忠告に従い、聖女が一言声を掛けると、鳥はゆっくりと下降する。
森の手前で降りると、鳥は空中に溶け込むように消えた。
目の前には、びっしりと木の生えた森がある。
明るい晴天の元であってもなお底知れぬ闇を抱えているような、暗い木々。
「とりあえず近くの町へ行きますか?この辺りの人は聖女の顔を知らないでしょう」
「待って、人前に出る前に……」
ナナミは鞄を開け、中から一本の瓶を取り出した。
「これを使いましょう」
「あっ!それはいいですね!」
凝った装飾の施された小さな瓶には、透明な液体が入っていた。
宮廷魔術師レジナルドが作った、姿を変える薬。
護身用に与えられたものだ。変身を解く薬もある。
「一回分しかないから、よく考えないと」
ナナミは瓶を眺めつつ、思案した。どんな姿にするか。
「元の外見と似ていない方がいいわね」
「と言うと、スライムとか野菜とか」
「…………」
「冗談ですよ」
いくらなんでも、人間をやめる気はなかった。
「では、金髪ドリルに派手な顔のナイスバディはどうですか?」
「高笑いが似合いそうな姿ね」
黒髪ストレートに地味顔、起伏の少ない体型の聖女とは、確かに対照的だが……。
「まぁ、面白味は無いけど、ごく普通の村娘にでも化けるのが無難じゃないですか?」
「そうなんだけど…………」
ナナミは瓶を見つめ、決断した。
小さな田舎町を、一人の美しい少女が歩いていた。
癖の無い赤みがかった黄金の髪は太陽の光を受けてキラキラ輝き、鮮やかな緑の瞳は好奇心に満ちて辺りを見回していた。
小さな妖精は姿を消したまま、エルシーの傍を飛んでいる。
ルビィはエルシーの心の中に語り掛けた。
二人は声に出さなくても会話することができるのだ。
(美人になりたい誘惑には勝てませんでしたか)
(仕方ないでしょ……薬は一つしかないし、長い間変身したままで暮らすことになりそうだもの)
身の安全を考えると、元に戻ることは当分できそうにない。気に入らない姿で過ごすのは苦痛になる。
(その外見は『聖乙女1』ですか)
(そうなの?)
「聖乙女1」、「聖なる乙女は愛を歌う」のヒロインの姿。
過去の聖女の中でも特に有名な人物で、ナナミもよく話に聞いていた。
旧王国の王女であり、当時「姫巫女」と呼ばれていた女神の申し子。
国が滅びた後も、彼女の偉業は書物や歌として残され、芝居でも人気の演目だ。
ゲームでは、「姫巫女」候補者として選ばれた少女が、修行に励んで女神に選ばれ、いくつもの難題を解決していく。
「乙女ゲーム」なので、彼女を支える男性との恋愛も描かれる。
(素敵な殿方が何人も周りにいたけど、誰と一緒になったのかわからないままだわ)
(誰か一人を選ぶと、他の攻略対象のファンが不満を持ちますからね。逆ハーエンドもありませんから、その辺りはわからないままでいいんですよ)
ルビィが訳知り顔に解説した。
(とにかく今は逃亡中です。あまり目立つ行動はしない方がいいですよ)
こちらをちらちら見ている男達を見てルビィが言った。
(そうね。色々詮索されても困るし、しばらくは顔を隠しましょう)
ナナミは古着屋に寄り、全身をすっぽり覆うマントを買った。人前ではこれで身を隠すことにする。
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